第5話 対決!柴田勝家
※この作品は忠実を基にしたフィクションです。実在の人物、事件、団体名などは一切関係ありません。
※この作品は、他者様の小説作品とは異なった、本作の作者によるオリジナル新スタイルの小説作品です。読者の方によっては、読みにくい等の支障がある場合がありますので予めご了承下さい。
≪ 第4話までのあらすじ ≫
自宅の倉に眠っていたとある戦いが描かれた巻物の中に、有名な戦国武将の一人である明智光秀とその隣に自分の姿が描かれていた華麗な女子高校生の神宮寺紗耶。紗耶は、その巻物を見た瞬間に、織田信長や明智光秀など有名戦国武将が生きている戦国時代へとタイムスリップしてしまった。
戦国時代のとある農村で心優しい村人の鹿之助とその息子のサスケに助けられた紗耶だったが、「桶狭間の戦い」で織田信長に敗れた今川義元の残党達により村は急襲され、鹿之助とサスケは不運にも命を落としてしまう。
そんな時、紗耶の目の前に明智光秀が姿を現した。彼は、残党を撃退後、紗耶を織田信長がいる居城へと連れて行った。そして、あの織田信長と紗耶は対面して紗耶に告げた。
「オマエを織田家の家臣に命じる」と…。
現代の日本。
紗耶の友人である指宿健斗は、学校を飛び出すと“ある場所”へ向かって走り出した。健斗が学校を飛び出した理由は、クラスメイトから紗耶の事でからかわれたからである。
アイツが連絡も無しに学校をサボるとは考えられない。
紗耶は、風邪などの病気になって学校を休む時は学校だけでなく健斗にも必ず連絡をしてくる。紗耶は健斗よりもマジメで優等生、健斗が秘かに尊敬している女子高校生だ。そんな紗耶が無断欠席するなど考えられない。
健斗は、街の商店街にやって来た。そして、紗耶が行きそうなお店などを片っ端から探していった。しかし、どこを探しても紗耶の姿は無かった。紗耶の顔を知っている商店街の人達にも聞いてみたが、紗耶の姿は今日は見ていないと言う。では、紗耶はどこへ行ったのか?
【????】「健斗君!」
突然、誰かが健斗を呼ぶ声が聞こえた。健斗は、それが一瞬、紗耶が呼んだかと思って、声がした方向を見た。すると、そこには紗耶ではなく、健斗と紗耶のクラス担任である広沢美咲の姿があった。クラス担任としては若い20代半ばの美人若手教師だ。
【指宿健斗】「なんだ、アンタか…。」
【広沢美咲】「“アンタか”じゃないでしょ、健斗君。随分、探したわよ。」
【指宿健斗】「そんな事より、紗耶から何か連絡はあったか?」
【広沢美咲】「えっ、連絡は全然無いけれど…。」
【指宿健斗】「クソッ!」
【広沢美咲】「神宮寺さんの事は、私の知人の警察の方や先生方も探してくれているから、指宿君は学校へ戻りましょう。」
【指宿健斗】「いや、俺は戻らねぇ。」
【広沢美咲】「指宿君!」
【指宿健斗】「先生、アンタも知っているだろ? 紗耶が、連絡も何も無しに無断で学校を休むようなヤツじゃない事を…。」
【広沢美咲】「…ええ、私自身もビックリしているけれど。」
【指宿健斗】「俺は紗耶の身に何かあったんじゃないか、って思っている。」
【広沢美咲】「…指宿君の考えすぎじゃない?」
【指宿健斗】「考えすぎじゃねぇよ。アイツとは小さい頃から一緒だったんだ。そんなアイツが、俺にも連絡無しに突然行方不明になるとは考えられない。昨日までは、いつもの紗耶だったんだ。小さい頃から何度もアイツと過ごしてきたこの俺が言うんだ。間違いない!」
【広沢美咲】「神宮寺さんの身に何があったの?」
【指宿健斗】「それは俺にも分からない。けれど、少なくとも何かあったのは間違いない。だから、俺は紗耶を見つけ出すまでは絶対に学校には戻らない! 紗耶の身に何かあったと言うのに、勉強なんかしていられるか!」
健斗の真剣な目を見て、美咲は黙ってしまった。
【広沢美咲】「…分かった。指宿君がそこまで言うなら、私は何も言わない。学校と指宿君の両親には私から言っておく。アナタの気が済むまで探すと良いわ。」
【指宿健斗】「…先生。」
【広沢美咲】「ただし、2つだけ条件があるの。」
【指宿健斗】「条件?」
【広沢美咲】「1つは、私も指宿君と一緒に気が済むまで神宮寺さんを探すわ。」
【指宿健斗】「えっ? アンタ、先生だろ? 授業の方は大丈夫なのかよ!?」
【広沢美咲】「私もアナタと一緒の気持ちよ。」
【指宿健斗】「俺と?」
【広沢美咲】「私の生徒の身に何かあったと言う時に、平然と授業なんかできないわ。自分の生徒の身に何かあったら、例え教師だったとしても何があっても助け出して守り抜く。そのためだったら、私はどんな目に遭っても構わない。それが私の教師としてのモットーよ。」
【指宿健斗】「先生…。」
【広沢美咲】「そして、もう1つの条件は…。」
健斗は、ゴクリと唾を飲んだ。
【広沢美咲】「もし無事に見つけ出すことができたら、2人とも補習授業にはちゃんとマジメに最後まで受けてね。」
それを聞いて、健斗はガクッと倒れた。まさか、そんな条件が出るとは思わなかったからだ。でも、2つ目の条件は当然か。
【広沢美咲】「どう、この条件?」
【指宿健斗】「良いぜ。補習でも何でも受けてやろうじゃんか!」
【広沢美咲】「決まりね。」
美咲はニコッと笑顔を見せた。
私(神宮寺紗耶:じんぐうじさや)は、織田信長の妹であるお市に、墨俣城内の一室に案内された。8畳一間の障子で囲まれた和室だった。部屋には小さなタンスくらいしか家具は置かれていない、とても寂しい部屋だ。
【お市】「このお部屋をお使い下さい。」
【神宮寺紗耶】「あ、ありがとうございます。」
【お市】「・・・・。」
お市さんが、私をジッと見ている。
【神宮寺紗耶】「な、何か付いています?」
【お市】「素敵な着物を着ているのですね。」
【神宮寺紗耶】「えっ!?」
【お市】「そのお着物は、何と言う着物なのですか?」
【神宮寺紗耶】「え、ええと…。これは、学校の制服です。」
【お市】「ガッコウ?」
【神宮寺紗耶】「あ、学校は、まだこの時代には無かったですね…。ええと、この時代では何て言えば良いのかしら…。」
【お市】「“ガッコウ”とは何ですか?」
【神宮寺紗耶】「学校とは、言葉を学んだり、計算をしたり、運動したり、友達なんかを作ったりするところよ。」
【お市】「へぇ〜、面白そうなところですね。」
【神宮寺紗耶】「まあ、面白いか面白くないかは、人によりますね。私のクラスに藤田君と酒匂君って言う不良生徒がいるんだけれど、彼らは、いつも授業を邪魔して先生に迷惑を掛けているし…(それが面白いんだけれど…)。担任の先生も、テロリストに銃で撃たれたのに短期間でピンピンするくらい生き返っちゃうし…。あ、でも副担任が、超オタクだっていうのがイヤだなぁ〜…。」
【お市】「フフッ! 貴女の時代って、とても面白そうですね。」
【神宮寺紗耶】「お市様は…。」
【お市】「“市”で良いですよ。」
【神宮寺紗耶】「市さんは、この時代が楽しいですか?」
すると、市さんは黙って考え事をした。
【お市】「…私は、この時代が嫌いです。」
【神宮寺紗耶】「えっ?」
思いもよらぬ答えだ。
【お市】「国を広げていく度に人々が戦で死んでいく…。でも、それはこの時代の掟みたいなもの。簡単に掟を変えることはできない。私は、それが嫌いです…。兄上は天下統一を目指していますが、そのために大勢の人が死んでいます。私は、一刻も早く兄上の天下統一を望んでいます。」
【神宮寺紗耶】「市さん…。」
【お市】「貴女の時代では戦はあるのですか?」
【神宮寺紗耶】「いえ、戦はありません。」
【お市】「そうですか…。貴女の時代が羨ましいです。」
【神宮寺紗耶】「えっ?」
【お市】「親兄弟が憎み合い、大勢の民がのたれ死ぬこの乱世の世よりは遥かに良いです。私も、そんな時代で生きて過ごしたかった…。」
【神宮寺紗耶】「市さん…。」
しばらくして、私は市さんに城内を案内された。外から見れば狭いように見えたお城だけれど、中は意外に広かった。一通り城内を案内された後、お城の中庭のような場所にやって来た。中庭では、柴田勝家を始めとする織田家の家臣が木刀を使った剣の稽古をしていた。それを廊下から見ていた市は、横で見ていた私に言った。
【お市】「柴田殿など兄上の家臣は皆、毎日のようにあのような剣の稽古をしています。いつでも兄上と共に戦に出られるようにしているんです。皆、兄上が天下統一をすることを望んでおられるのです。そのために、自分はどうなっても構わないと…。」
【神宮寺紗耶】「へぇ〜…。」
私は、しばらく家臣達の剣の稽古を廊下から市さんと一緒に眺めていた。市さんの言うとおり、例え剣の稽古でもその目は真剣そのものだ。
すると、柴田勝家は私が見ている事に気づき、あまっていた木刀を私の前に投げてきた。その木刀は私の足元に落ちた。
【神宮寺紗耶】「えっ?」
【柴田勝家】「小娘、貴様、剣道が得意らしいな。俺と一戦を願おう。」
突然の思わぬ発言に、その場にいた武将達は驚いた顔をして柴田勝家を見た。
【丹羽長秀】「柴田殿。突然、何を言う!?」
柴田勝家は私を鋭い目つきで睨みつけながら言った。
【柴田勝家】「信長様は貴様の事を気に入ったらしいが、俺は貴様の事は一切認めん! この俺に認めて貰いたくば、この俺と一戦を交え俺を負かす事だ。それが出来なければ、直ちにこの城から去れ! さもなくば貴様を斬る!!」
【前田利家】「オイオイ、勝家。相手は、女だぞ。女相手に戦うと言うのかい?」
【柴田勝家】「相手が女だろうと子供だろうと容赦はせん! 相手の持つ力は、刃と交えて初めて分かる。そうだろ?」
前田利家はハァ〜とため息をつきながら頭を片手でポリポリとかいて言った。
【前田利家】「好きにすれば?」
柴田勝家は再び鋭い目つきで私を見た。
【柴田勝家】「どうした、小娘? 怖気付いたか?」
そう言って、柴田勝家は私に木刀の先を向けた。
【お市】「紗耶殿。柴田殿と戦ってはなりません。柴田殿は、この城でも兄上と1、2を争うくらいの剣の使い手です。柴田殿の挑発に乗らないで下さい。貴女に柴田殿を負かせられません。」
【柴田勝家】「さあ、どうする!?」
私は市さんと柴田勝家の言動の間に挟まれながら悩んだ。しばらくして、私は足元にある木刀を手に持ち、柴田勝家が待つ中庭へ向かって歩き始めた。
【お市】「紗耶殿!」
市さんが言葉で私を止めようとしたが、私はそれを無視して、柴田勝家の前に無言で立ち、そのまま柴田勝家を真剣な目で睨んだ。
【柴田勝家】「良いか! これは俺と小娘の勝負。誰も手を出すでないぞ!!」
と、私を睨みつけながら、周りで戦いの様子を見物している武将達に言った。
私と柴田勝家は、お互いに自分が持つ木刀の先端を相手に向けた。
【柴田勝家】「小娘、逃げ出すなら今のうちだぞ。」
【神宮寺紗耶】「逃げるのは、そっちじゃないの?」
【柴田勝家】「ナメた口を、小娘がッー!!」
柴田勝家は、容赦なく私の顔面目掛けて木刀で突いてきた。私は、咄嗟に横にかわした。だが、休む間もなく瞬時に勝家は突きを繰り返してきた。その速さに、私は攻撃をかわすのが精一杯だった。
【柴田勝家】「オラオラ、どうした? かわすのが精一杯か?」
【神宮寺紗耶】「クッ!」
それでも、柴田勝家は攻撃を続けてきた。一瞬の隙が全然無い。私は、これまで部活や武術の大会で多くの相手と戦ってきたが、それと比べ物にならないくらいの強さだ。さすが多くの戦をこなしてきた戦国武将だけのことはある。
あまりの強さに、私は地面に押し倒されてしまった。でも、容赦なく攻撃は続く。私は押し倒されながらも、全ての攻撃を木刀で受け止める事しかできない。
【柴田勝家】「ハッ! 所詮は女だな。これで戦に出られるワケがねぇぜ!」
私は、激しい攻撃を受けながらも、ある出来事を思い出した。
それは、私がこの戦国時代にタイムスリップする直前の学校でのこと。朝の部活動に行った時、崋山高校の武術部員が後日行われる大会の前に予告無しに戦いを挑んできたのだ。私は、武術部のエースとして相手の戦いに挑んだ。でも相手は男。私は女。力で負けていた。あの時も、私は相手の男に力で押し倒された。
それだけじゃなかった。この時代に来て、私は仮面の男とも戦った。その時も、私は力に負けて押し倒された。
【神宮寺紗耶】(…私、どこへ行っても負けるの?)
私の目からは、いつの間にか涙が出ていた。私は女。男には敵わない。そんな時だった。私は、鹿之助さんが死ぬ直前に私に言った言葉を思い出した。
【鹿之助】『い、生きて下さい。い、生きて、あ、アナタの元の時代へ、帰れるよう、祈っています…。』
そうだ…。私は、生きて元の時代へ戻らなければならない。生きて戻るためには、この戦い、勝たねばならない!
【柴田勝家】「!」
【神宮寺紗耶】「ハァッ!!」
私は、力を振り絞って、自分の力を使って、柴田勝家を押し戻した。その瞬間、柴田勝家に一瞬の隙ができた。私は、その瞬間を狙って立ち上がり、木刀を握り締めた。
【神宮寺紗耶】「…私は、負けない。約束したんだ、生きて戻るって。私は、その約束を守らなければならない。この戦い、負けられない! オマエなんかには絶対に負けない! 私立『風凛高校』武術部エースの名のため、神宮寺紗耶、 参るッ!!」
【柴田勝家】「フンッ! やっと本気を出すようになったか。…良いだろう。コチラも本気でまいろう。来いッ!!」
私は短距離のランナーの如く、柴田勝家に向かって飛び出し木刀を振った。柴田勝家はそれを間一髪でかわし、しゃがみながら回転して攻撃してきた。私も寸前でかわして、攻撃する。柴田勝家の見た目は40代に見えるのだが、そうとは感じさせないくらいの速い攻撃だ。それも先程の攻撃よりも更に攻撃スピードが速くなっている。それでも、私は負けなかった。
【????】「市殿。」
【お市】「明智光秀殿。」
【明智光秀】「紗耶さんが柴田殿と戦っていると言うのは本当ですか?」
【お市】「ええ…。」
と、お市と明智光秀さんは、中庭で戦っている私と柴田勝家を見た。
しばらく互いの競り合いが続いた後、やがて鍔迫り合いになった。鍔迫り合いとは、打ち合わせた刀(この場合は木刀)の鍔もとで受け止めたまま互いに押し合う事を言う。この鍔迫り合いでどちらかが力負けした瞬間に必ず一瞬の隙ができる。そこが絶好の攻撃チャンスだ。私はもちろん、相手もそれを狙っているだろう。だから、負けられなかった。
【柴田勝家】「たかが小娘が、俺の力に勝てるワケがないッ!!」
【神宮寺紗耶】「…女だって、甘く見るなぁーッ!!」
私は、更に押す力を強めた。その瞬間、柴田勝家がついに力負けして、少し後ずさりした。私はそこに出来た一瞬の隙を突いて、柴田勝家が手にしていた木刀を私が持っていた木刀で叩き飛ばした。
【柴田勝家】「なにッ!?」
柴田勝家が自分の武器が一瞬の内に無くなって驚く頃には、既に私の木刀がゼロ距離で柴田勝家の額に向いていた。
あまりに一瞬の出来事の他に、周りで見ていた大勢の武将達が更に驚き始めた。
【丹羽長秀】「し、柴田殿が、負けた…。」
【前田利家】「ほぉ〜…。やるじゃん、あの娘。」
【お市】「まさか…。」
【明智光秀】「・・・・。」
織田家で1、2を争うくらいの剣の腕前を持つ柴田勝家が、他所から来た10代の女子高校生である私に負けたのだ。それが、武将達にとって一番の驚きだった。
私はハァハァと強く息切れをしながら、柴田勝家を睨み続けていた。柴田勝家は、とても悔しそうな顔をした。
【柴田勝家】「ハァハァ…、こ、この俺が、こんな小娘に、負けるのか…。」
【神宮寺紗耶】「こんな小娘じゃないわ。私は由緒代々続く神宮寺の巫女、神宮寺紗耶よ!」
【柴田勝家】「…クッ!」
そんな時だった。どこからか誰かが小さく拍手する音が聞こえた。その音がした瞬間、中庭にいた全員がその音の方向を見た。すると、そこに1人の男が小さく拍手しながら立っていた。
【柴田勝家】「の、信長様…。」
【神宮寺紗耶】「えっ?」
よく見ると、確かに、中庭の廊下に、織田信長がいた。相変わらず全て見通すくらい鋭くて威圧感がある目で私を見ている。その姿を見た私以外の全員が、信長に対して腰と頭を下げた。
【柴田勝家】「信長様、申し訳ありませんッ!」
【織田信長】「フッ…、是非もなし…。」
【柴田勝家】「コラ、小娘。信長様に無礼だぞ。控えろ!」
【織田信長】「よい、勝家。そのままにしておけ…。」
【柴田勝家】「ハッ!」
【織田信長】「皆の者、面を上げい。」
その言葉で、頭を下げていた武将達や市さんが顔を上げた。
そのまま信長は、私と頭を下げ続けている柴田勝家の前にゆっくりとやって来た。
【織田信長】「うぬの武功、見させてもらった。うぬを褒めおこう、ぞ…。」
【神宮寺紗耶】「…あ、ありがとうございます。」
【織田信長】「うぬのその武功、この信長も味おうてみたくなったぞ…。」
【神宮寺紗耶】「えっ?」
【織田信長】「退け、勝家…。」
【柴田勝家】「…ハ、ハハッ!」
そう言って、信長は柴田勝家の近くに落ちていた私が叩き飛ばした柴田勝家の木刀を拾い上げ、私に向かって木刀を構えた。思わぬ言動に、その場にいた武将達が驚き始めた。
【明智光秀】「信長様。お言葉ですが、この者は先の柴田殿との戦いで体力が激しく消耗しています。このまま戦わせるのは…。」
【織田信長】「黙れ、光秀!」
明智光秀さんは信長の強い声にビクッとして、思わず口を閉ざしてしまった。
【柴田勝家】「や、やめろ、小娘…。」
【神宮寺紗耶】「えっ?」
【柴田勝家】「いくら貴様がこの俺を倒せたとしても、あの御方には貴様は敵わない。あの御方は、俺達と次元が違うのだ…。」
【神宮寺紗耶】「・・・・。」
【織田信長】「どうした…。来ぬのか?」
私は、信長を見て、木刀を構えたまま信長に飛び出した。しかし、信長は目を閉じたままピクリとも動かない。どう見ても隙がありすぎる。
【神宮寺紗耶】(もらった!)
【明智光秀】「止まれ!」
【神宮寺紗耶】「えっ!?」
私は、明智光秀さんの叫ぶ声で思わず立ち止まってしまった。織田信長はそのままである。
この時、私は何か違和感を覚えた。よく見ると、私が手にしていた木刀の長さが、やけに短い。先程までは通常の刀と同じくらいの長さだったのに、今は私が手に持っている部分から5センチくらい先の刀の部分、要するに木刀の刃の部分が全然無いのだ。
その瞬間、私のすぐ目の前、私の額をかするくらいの近さに突然何かがビュッと落ちてきた。それは、そのまま地面に真っ直ぐ突き刺さった。
【神宮寺紗耶】「ッ!!」
それは、なんと私の木刀の刃の部分だった。どう言う事だ、コレは…。
私は、織田信長を見た。織田信長は先程と変わらず、木刀を構えて目を閉じたまま立ったままだ。
【織田信長】「…フッ、是非もなし。」
私は、ハッとした。
【神宮寺紗耶】「あ、あなたが…。」
私は急に意識を失い、その場にバタリと倒れてしまった。朦朧とする意識の中、お市さんや明智光秀さんが急いで私に駆け寄ってくるのが辛うじて分かった。
そして、織田信長は私に背を向けて、ゆっくりとその場を立ち去るのが見えた…。
【神宮寺紗耶】「…織田、信長…。」
そのまま私は気を完全に失った。
気がつくと、私はどこかの街角に立っていた。街と言っても、現代のようなビル街ではない。木造で出来た2階建ての家が延々と四方八方に続いているのだ。ここは、戦国時代のどこかの都なのだろうか。
【神宮寺紗耶】「…どこなの、ここ?」
夜なのに、街道には灯りは全然無い。かろうじて満月の輝きで何とかなるが、ほぼ真っ暗だ。歩けば歩くほど、同じ景色ばかり。自分が今どこを歩いているのかさえ見当がつかない。
しばらく歩くと、後ろから何かが近づいてくる音がした。それも1つだけではない。振り向くと、遠くから松明を持った騎馬隊が向かってくるのが分かった。どこの騎馬隊だろうか。
だんだん近づいてくる騎馬隊。そのスピードは速い。やっと肉眼で騎馬隊の先頭の姿が見えるくらいまで近づいてきた。私は、その騎馬隊の先頭にいた人物を見てハッとした。
【神宮寺紗耶】「…明智さん!?」
騎馬隊の先頭にいたのは、明智光秀さんだった。と言う事は、この騎馬隊は織田家のものだろうか。それより、明智光秀さんの姿を見られてホッとした。この暗闇の迷宮から抜け出せると思ったからだ。きっと、いなくなった私を助けに来てくれたに違いない。
【神宮寺紗耶】「お〜い、私はココよ!」
私は、騎馬隊に向かって両手を大きく振りながら大声で叫んだ。騎馬隊が私に向かって近づいてくる。騎馬隊は私の数メートル手前までやって来た。
しかし、騎馬隊はスピードを落とすことなく、そして私に気がつくこともなく、あっという間に私を抜き去っていった。
【神宮寺紗耶】「えっ!?」
あの明智光秀さんも私に気がつかないのか、そのまま私を抜き去って行った。私は振り返って、遠ざかっていく騎馬隊を見て大声で叫んだ。
【神宮寺紗耶】「お〜い! ココだってば!!」
しかし、騎馬隊は戻ってくる気配が無い。本当に誰も気が付かないのか。あれだけ私のすぐ傍を抜き去って行ったのだから、誰か1人でも気がついているはず。
とにかく、私は騎馬隊の後を走って追いかけることにした。
しばらく走っていると、先程の騎馬隊の姿が見えた。どこかの大きな屋敷のような門の入口で騎馬隊の全員が立ち止まっている。これで声を掛ければ、私に気がつくハズだ。
私は、騎馬隊の傍に駆け寄って、1人1人に声を掛けた。だが、全員が私を無視している。
【神宮寺紗耶】「あっ、光秀さん!」
私は、騎馬隊の先頭にいた明智光秀さんに駆け寄って声を掛けた。しかし、大きな声で叫んでも光秀さんは私に全然気がつかない。光秀さんの服を掴んでも全然だ。それどころか、光秀さんは真剣な眼差しで先程から大きな屋敷の門を睨み続けている。
すると、光秀さんは自分の鞘から刀を抜き取り、そのまま刀を天に掲げて叫んだ。
【明智光秀】「・・・・・ッ!」
【神宮寺紗耶】「…えっ?」
光秀さんは大きな声で何か叫んで言っているように見えるが、その声が全く私の耳に聞こえない。私がすぐ傍にいるのにも関わらずだ。
【神宮寺紗耶】「ちょ、ちょっと、何を言っているの!? 全然、聞こえないよ。」
その時、大きな門がゆっくりと開くと、明智光秀さんを含む全員が一斉に屋敷内に走り去っていった。
【神宮寺紗耶】「待って! 私を置いて行かないでよッ!!」
気がつくと、周囲は真っ暗な暗闇になっていた。
【????】「…さん。…耶さん。…紗耶さん?」
私は、ゆっくりと目を開けた。目の前には、心配そうな顔で私を覗き込む明智光秀さんとお市さんの姿があった。
【お市】「気がつきましたか?」
【明智光秀】「紗耶さん、大丈夫ですか?」
【神宮寺紗耶】「…お市さん? …光秀、さん?」
私が目を覚ましたのか、2人は安心してニコッと笑顔を見せた。私は、そのまま光秀さんの顔を見て言った。
【神宮寺紗耶】「…どうして、私を暗闇の中に置いて言ったの?」
【明智光秀】「紗耶さんを私が置いて行った? …何のことですか?」
【神宮寺紗耶】「えっ?」
【お市】「貴女は、兄上と戦っている最中に突然気を失われて倒れてしまったのですよ。」
【神宮寺紗耶】「えっ?」
私は白い布団に寝かされていた。寝たまま周囲を見回すと、そこは古びた街も大きな屋敷の門も無く、織田信長の居城にやって来た時に使用を許された私の部屋だった。しかも、部屋の向こうの廊下が真っ暗な事から、もう夜になっていると思う。
【神宮寺紗耶】「…夢、だったの? …ハァ〜、良かった。」
できれば、この時代にいることも夢であって欲しかった…。だが、この時代で目を覚ましたと言う事は、間違いなく現実のようだ。
【お市】「随分、魘されていましたよ。よほど、辛い夢でも見たのでしょうね。」
【神宮寺紗耶】「どのくらい私は気を失っていたんですか?」
【お市】「…半日ほどです。」
【神宮寺紗耶】「半日…。」
気を失うと言う事は、私にとっては初めてだ。まさか、半日も気を失っていたとは…。
あの織田信長と戦い始めた直後までは覚えている。しかし、そこから今までの事が思い出せない。
【神宮寺紗耶】「…あ、あの、私はなぜ気を失ったのですか?」
【明智光秀】「!」
【お市】「覚えていないのですか?」
【神宮寺紗耶】「…ええ。織田信長に向かって飛び出したところまでは覚えているのですが…。」
【明智光秀】「貴女はあの時、あの御方が己の目を閉じ隙が多かったことから飛び出して攻撃を仕掛けたのでしょう。ですが、その時こそあの御方が狙っていた時なのです。」
【神宮寺紗耶】「狙っていた? 私が攻撃してくる事を?」
【明智光秀】「あの御方が得意とするのは、居合い切りです。目を閉じ、己の感覚を研ぎ澄ませながら、瞬時に相手からの攻撃を読み取り、その攻撃を一瞬で止めさせる。貴女の場合は、貴女の武器である木刀を自分の木刀で真っ二つに叩き割る事で攻撃を止めたのです。その動きがとても素早いので、いつ叩き割ったのか分からず、相手は信長様がずっと目を閉じ続けたままに見えたでしょう。私が止めなければ、貴女の頭に真っ二つに割れた貴女の木刀の刃が落ちてくるところでした。結果、私の声が間に合い、貴女の額をかすめる程度で危険は回避できましたが…。…要するに、貴女はあの御方の強さを目の当たりにして気を失ってしまったと言う事です。」
【神宮寺紗耶】「アレが、あの信長の強さ…。」
【明智光秀】「気を悪くされるかもしれませんが、今の貴女ではあの御方に触れる事さえ出来ません。」
【神宮寺紗耶】「・・・・・。」
私は、あの柴田勝家を倒した女。だから、このまま行けば、あの織田信長も倒せると思っていた。だが、私は織田信長の前で見事に完敗した。相手に近づくことも出来ない。それが、武術部のエースである私にとっては大きなショックだった。
【お市】「…紗耶さん。」
【????】「失礼します。」
と、その時、小柄な木下藤吉郎(きのしたとうきちろう:後の豊臣秀吉)が私の部屋にやって来た。
【木下藤吉郎】「明智殿、信長様がお呼びで御座ります。」
【明智光秀】「分かりました。すぐに行きます。」
そう言うと、光秀さんは布団で横になっている私に向かって言った。
【明智光秀】「今日はとにかくお疲れだったでしょう。もう夜ですから、今日はこのままお休み下さい。」
と、ニコッと笑顔を私に見せた。私は、その素敵な笑顔にしばらく見とれてしまった。
【明智光秀】「…紗耶さん?」
【神宮寺紗耶】「…あっ、い、いえ…。…そ、その、ありがとうございます。」
と、私はなぜか照れながら言った。
光秀さんはクスッと笑って、お市さんと共に部屋を出て行った。部屋には私1人だけになった。
私1人だけになった部屋はシーンと静まりかえった。昼間はそうでもなかったのだが、これほど静かになると逆に不気味でなんだか恐い。
確かに、今日は色々な事があって正直疲れた。
鹿之助さん達が住む村が急襲されたり、鹿之助さんが私をかばって命を落としたり、あの明智光秀や織田信長と出会ったり、織田信長の家臣の柴田勝家と1対1で戦ったり…。本当に色々な事がありすぎた。
そして最後に想うのは、やっぱり現代の日本に住む皆の顔。
【神宮寺紗耶】(…みんな、元気かな? 私がいなくなって、今頃大騒ぎしているかな? お父さん、お母さん、先生、みんな…。)
そして、ふと健斗の顔が思い浮かんだ。
【神宮寺紗耶】(…健斗。)
私は、皆の顔を思い浮かべながら、目を閉じて眠りに入った。
【神宮寺紗耶】(早く元の皆がいる時代へ、帰りたい…。)
私が深い眠りに入った頃、城の大広間では真夜中であるにも関わらず、大勢の武将や信長の姿があった。その中には明智光秀の姿もあった。
【森蘭丸】「信長様、ご命令どおり侍大将以上の者が集まりましてございます。」
【織田信長】「うぬらに集まってもらったのは他でもない…。この信長、戦を致す…。」
戦をすると聞いて、武将達にザワメキが走った。
【織田信長】「この信長の天下統一のため、斉藤龍興が居住する稲葉山城を攻略する…。」
【丹羽長秀】「い、稲葉山城を…。」
【前田利家】「稲葉山城を攻略し斉藤龍興を撃破すれば、上洛がこの城より近くなる…。さすがだぜ、信長…。」
【柴田勝家】「利家、信長様に何たる口の利き方だ!身分を弁えろ!!」
【織田信長】「構わん、勝家…。」
【柴田勝家】「ハッ!」
【前田利家】「…ったく、ウルせえ男だぜ。あの小娘に負けた事を根に持っているんじゃないか?」
【柴田勝家】「んだと?(怒)」
【前田利家】「やるか、クソジジイ!」
【森蘭丸】「止めなさい、2人とも! 軍議の最中です。」
【柴田勝家】「…チッ! 覚えておけ、利家。」
【前田利家】「・・・・。」
【織田信長】「…では、稲葉山城に出撃する部隊を決める。」
【木下藤吉郎】「信長様、それならばこのサルにお任せを! 稲葉山城周辺は、ワシの地元。龍興を裏から攻撃してみせます!!」
【織田信長】「…サル、その任、うぬに任せよう。」
【木下藤吉郎】「ハハッ! 有り難き幸せ。」
【織田信長】「ただし、あの紗耶とか言う小娘を連れて行け。」
それを聞いた武将達が一斉に驚いた。もちろん、光秀も耳を疑った。
【柴田勝家】「しかし、信長様。あの者は確かに剣の腕は良いですが、戦に出られるほどのモノではありませぬ。しかも、ヤツはまだ小娘で…。」
【織田信長】「黙れ、勝家。うぬは、この信長に刃向かうのか?」
【柴田勝家】「い、いえ…。」
【明智光秀】「・・・・。」
【織田信長】「これより信長は斉藤龍興に戦を仕掛ける…。時は早朝、龍興に気取られぬように我が兵を進め、一気に城を攻略せよ。目指すは、斉藤龍興の首ぞッ!!」
【武将達】「ハハッ!!」
この時、この私が初めての戦に出陣することになろうとは、まだ夢にも思っていなかった。
果たして私は、本当に無事に現代の日本へ戻ることが出来るのだろうか!?
次回、「稲葉山城攻略戦」。
私、絶対に生きて帰ってやるんだから!!
≪ 第6話に続く ≫
※第6話は、2009年6月頃(毎月1回)の公開予定です。お楽しみに!!
≪ この場をお借りして宣伝! ≫
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