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二人の証人

「やっぱり行かせられない。ここはルシファー宮殿への入り口だ。この地にないはずのルシファー宮殿だが、何かの仕掛けでここから入り込めるようになっている。これは明らかに罠だ。リサを行かせられない。この身に代えても、俺はここで阻止・・・・・。」


 ここまで言って、俺は急に意識を失った。リサの手を取って懸命に説得している俺の背後から、サヤが何かの施術をしたらしい。こうして俺は三日半もその入り口あたりで寝かされていた。目が覚めた時俺はメデューサの背中にいた。

「あれ、リサとサヤはどうしたんだ。」

 メデューサはやっと答えた。

「捕まえられた・・・・。」

「なんだ?。それなのに逃げ出してきたのか。俺たちはどこへ行こうとしているんだ。戻れよ。そして、事情を話してくれ。このままでは済まされないぞ。」

 メデューサはやっと地上に俺を下した。

「さあ、何があったのか、話してくれ。」

 メデューサは俺の目を見ようとはしない。それでもぽつぽつとゆっくり話し始めた。ルシファー宮殿で何があったかを。


 ・・・・・・・・・・・・・・・


 私たちは、らせん階段を警戒しながら降りて行きました。明るいうちに竪穴の底まで降り立つことができました。そこには、灯のない暗い横穴のような洞窟がありました。中は熱気に満たされ、あまりの湿気と暑さにリサとサヤは汗だくになりながら、また極力薄着になって進んでいきました。暗い中でも彼女たちは光を発していたので、その光で前を照らしながら進んでいきました。

 しばらくいくと、急に大きなドーム状の広場に出ました。気づいたときには、来た道が閉ざされて、私たちは圧倒的な敵たちに囲まれていました。彼らは、リサやサヤ、私を追い詰めた眷属龍たち、堕天龍、そしてその奥には私の知らない、見たことのない、見ることのない存在までが私たちをにらみつけていました。明らかに罠でした。私たちは完全に包囲され逃げ道はなかったのです。

 でも、彼女たちはそれを待っていたのです。動じずに彼女たちは声を発し始めました。

「帝国の住人達よ、貴方達はこのままでは滅びる。ルシファーの眷属達と手を切り、立ち還れ。あなたたちに許しの機会がある。この地にあって、天の栄光を知れ。」

 それに呼応するようにリサが叫びました。

「底知れぬ所より出てきたルシファーの眷属たちよ、退け。」

 眷属龍たちはそれを聞いていきり立ったように押し寄せてきました。私はすぐに彼女たちを囲い、銀鱗のやいばを、眷属龍達に多数投ぶつけました。サヤやリサも光で眷属龍から堕天龍まで圧倒しました。これですべてを粉砕したかに見えました。

 残りの龍達は地下のさらに深いところへと逃げました。ところが、龍達は逃げた地下から戻って来たのです。皇帝と全身を見せた黒い化身たちとともに。彼等は千年帝国の皇帝オーブルミルミと彼の配下、アスタロト、マモン、サガン、アスタロト、ベルゼブブ、マモン、サガン、バールベリト、サリエル、メフィストフェレスと言う化身でした。彼らには、私もリサもサヤもかないませんでした。あっという間にサヤとリサは、皇帝の前に引き出されました。

 私は、それを見て逃げ出そうとしたのですが、一撃を受けてしまいました。

 気がついた時に私は、私の倒した眷属龍、堕天龍たちの死骸とともに、地上に打ち捨てられたのです。


 ・・・・・・・・・・・


 メデューサはイメルリ達のいるところへと戻した。

 俺は、黒い猫又となって、言われた通りの道を辿った。

 カルデラ状の縦穴の底、その横穴の洞窟。その先に、昔馴染みのあった建物群が連なっている。間違いなくルシファー宮殿だった。

 確かに眷属龍は大方がメデューサにやられたのか、姿がない。そのほかの眷属達も見当たらない。どこにいるのだろうか。

 次第に奥へと進む。すると、ルシファー宮殿での騒ぎの跡が見えた。馴染みのある乱痴気騒ぎの後だ。踊りにでも使ったのか、楽器のような道具。散乱する酒や血、肉の乾いた跡。なんの祝い事なのだろうか。俺たちの二つの要塞を落とした記念なのだろうか。いや、そんなことで祝う奴らではない。憎悪の対象でもやっつけたとでも言うのだろうか。

 俺には、悪い予感があった。それが当たった。


 ………………………


 そこには、変わり果てたリサとサヤの体があった。生きていれば、見えたり見えなくなったりするはずの身体。もう三日も打ち捨てられ、そのままにされている。俺はリサの元に駆け寄った。懐かしいリサの匂い。しかし、それは昔苦い思い出を伴うもの。殺された時の彼女の匂い。目の前のリサはまた殺された。これは俺の責任だ。そう嘆いた。


 俺はせめて彼女たちを弔おうと、二人の体を抱えようとした。すると、どこからか虚龍の声が聞こえた。

「触れるものは誰だ。そいつらは晒し者にしているのだ。皇帝陛下の命令だぞ。」

 虚龍の方を向かず、だまっていた。

「お前は誰だ?。」

「……。」

「顔を見せろ。」

「……。」

「この匂いは、まさか、グー!。」

「そのまさかだ。この二人はもらい受けていくぞ。」

「ほう?。その二人はもう死んでいるんだぞ。」

「知っているさ。俺は弔いにきたんだ。」

「弔い?。また人間臭いことを。」

「そして、弔い合戦をしにきた。」

「何?。」

「お前ら、よくもリサをこんな目に合わせてくれたな。それに対する報酬は冷たく与える。」

「ほう。冷たい報酬だと?。ほほう、お前が俺に復讐するのか。やるならやって見せろよ。」

「復讐ではない。あくまで報酬。それも冷たければ冷たいほど効果的なもの。」

 俺は静かに返事をした。俺は決して激昂するまいと思った。冷静になって静かに復讐を天に任せようとも思った。しかし、リサの傷ついた顔を見たとき、身を震わせる衝動が俺を覆い、制御できない動きとなって虚龍を襲った。俺には冷たい報酬を与える知的な行動は無理だった。あまりにリサの存在が絶対だった。

 俺の剣の一撃は、虚龍の尾を本体の根元から切り落とした。

「まって。」

 リサの声だった。俺の暴走した思念のあまりの熱さに、リサたちの目覚めが与えられたのだろうか。

「グー、待ちなさい。」

 俺は振り返れなかった。目の前の虚龍を警戒してのことでもあったが、死んだ者がそのまま復活させる力に恐れをなして、目を向けられなかった。

「グー。待って。」

 確かに後ろから俺の首を摘まむ者がいた。上目遣いで見上げると、底には確かにリサの顔と、サヤの怒ったような顔があった。その隙を突いたのか、虚龍は逃げ去っていた。

「なんで、どうして。」

 二人の姿を見た俺は、言葉がなかった。

「さあ、戻りましょう。」

 リサが声をかけてきた。

「ゆ、夢なのか。」

「夢じゃないわよ。現実よ。」

「現実?。現実にこんなことがあるのか?。」

 リサが納得させるようにゆっくりと話を続けた。

「天はこんなこともできるのよ。これは、すでに予言されていたことよ。人類に告げられ、現実に起き、そして伝えられたこと。」

「なぜこんなことが・・・・。」

「それは、知性を与えられた人すべてに、義に立ち返る機会が与えられるためね。」

「そうだったのか。それを俺にも教えてくれるのか。俺の知性は与えられたものであって、俺のものじゃあない。」

「でも、こうすべきだったのよ。」

「あ、ありがとう。」

「さあ、戻りましょう。長居は無用よ。」

 俺は、リサの顔をまじまじと見上げた。気が付けば、まだ猫又の姿のままだった。しかし、この悪の巣窟を出るまでは、ここにふさわしい姿でいることが最善だった。俺は、まだ半分しか信じていなかった、このままリサとサヤが地上に戻れるかどうかを。

「グー、メデューサは無事なの?。」

 サヤが俺の髭を引っ張りながら俺の顔を覗き込んだ。

「髭はやめてくれ。彼は元気だ。アルクッズ宮のイメルリのところにいる。」

 サヤはなぜにこんなに不機嫌なのだろうか。

「そう、それならいいわ。それにしてもあんたは私に声ぐらいかけてくれてもよかったのに。」

 彼女はそう言って、さっさと先へ歩いて行ってしまった。

「ここを出ましょう。」

 リサの言葉に促されて、俺も出口へと向かった。


 ・・・・・・・・・・・・


 俺は気がせいていた。あの虚龍がこのまま俺たちを逃がすわけはなかった。

 横穴だった洞窟は、地殻変動のせいかゆがみ始めていた。確かにここを破壊すれば、立坑も崩れる。そう考えられた。そうすれば、ルシファーたちの追撃も防げる。

 そう考えて、俺は横穴に少しずつ細工をしていった。歪みの速度を計算し、ちょうどいいころ合いに崩れ始めることを期待して・・・・。


 地上に上がった時にはもう深夜だった。乾燥した冷たい風が過ぎていく。ここには草木が生えていない荒地であるゆえ、寒風を遮るものがない。昼の暑さに比べて50度以上気温が下がっている。俺は下毛を逆立てて保温しているが、リサとサヤは薄着のまま出てきたため凍えている。

「この寒さならば、帝国の奴らも襲ってこないでしょ。ここで寒さをしのぎましょう。」

 俺は善意から自分の胸元にリサを招いた。サヤも渋々俺の毛皮の中に身をうずめた。

 次の日、目覚めた時はすでに日が高く昇り始め、気温も高くなっている。俺は無意識に直立歩行の形態に変異していた。

「襲ってこないわよね。」

「襲わないはずよね。」

「そうだけど。」

「それならこれはどういうことなの?。」

 昨夜は帝国のやつらは襲ってこなかった。確かにそうだ。しかし目の前の二人は、身動きもせず怒りを発している。たぶん襲来のことではないらしい。さらにいろいろ仮説を立てて考えた。行き当たった考えは、俺にはなかなかわかりにくいことだった。昨夜彼女らをかばうつもりで前足で挟みながら寝たのだが、直立歩行の形態でもそんな姿勢をとっていたことが誤解を招いていたらしい。それの何がいけないのだろうか。


 幸いなことに、彼女たちはほかのことに気を取られた。ソニックが上空を飛んでいる。何かを知らせだろう。

「大猪、眷属龍たち、そして帝国軍までが現れている。俺たちの滞在しているアルクッズ宮の近くに陣を敷いているぞ。」

 彼らはアルクッズ宮が狙いだった。

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