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帝国攻略

 すでにイメルリはイシククル湖北西の谷に集結しつつあった。しかし、十キロほど湖畔へ下りたところにある要塞では、既に砂ぼこりとともに準備をすっかり整えていた。巨大なカルデラの城壁前には、守備隊とベヒーモスの眷属獣大猪の隊列が陣形を整えている。


 サヤがイメルリたちと検討した結果、ただ攻めるだけでは城塞を落とすことができないらしい。リサの解説によれば、この場合、陽動を用いて敵守備隊の隙をつき、俺とサヤ、リサ、メデューサの四人が城塞に侵入する必要があるという。ただ、侵入後に一つの問題があった。俺の記憶では、要塞の中は照明がないはずだった。

 俺がそのことに言及すると、サヤは戸惑ったような返事をした。

「中は真っ暗なのね。伽藍の下は特に迷路になっているらしいわ。彼らはどのようにして暗闇を歩いているのかしら。」

 俺は、それに答えた。

「彼等バンパイアは、いつも狼達に先導させて通路を進んでいるんだ。狼達の嗅覚によって彼等は通路を間違いなく進むのさ。ただ、大伽藍の柱はカルデラの壁面に沿っているので、真っ暗でも簡単に見つかるさ。柱は五つ。壁面に沿って進めばいいと思う。三か所を同時に破壊することでバランスを崩せる。」

 サヤが不可解そうな顔を俺に向けた。

「よく知っているわね。」

「グーはルシファー宮殿にいたことがあるのよ。この種の要塞の構造は彼がよく知っているわ。」

 リサが俺の為に説明してくれた。

「では、こうしましょう。最近距離の左柱は私とメデューサ。ここから右手の二つの柱をリサとグーが担当して。」

 こうして俺たちは二手に分かれることにした。


 さて、敵守備隊の正面をイメルリ達が攻めはじめた。押し出したイメルリ達はやがて敵を誘うように全軍を引き上げていく。それに応じて大猪たちが中央突破を図ろうと突撃してきた。その側面をバイソンの遊撃部隊が突くように飛び出す。ここまでは作戦通りだった。分断された大猪達は、バイソンによって全て粉砕された。

 守備隊は混乱し、敵の要塞には隙ができた。その隙をついて、俺たちはカルデラに侵入した。


 俺たちが第二の柱へと走っている間に、サヤたちは早々と第一の柱を破壊した。俺たちも続いて右の柱、そして奥の柱を破壊し、大伽藍の反対側へと走り抜けた。大伽藍を出ると同時に、計算通り要塞の崩壊が始まった。

 その時、城壁の上に立ったサヤが大きく叫んだ。

「帝国の住人達よ、貴方達はこのままでは滅びる。ルシファーの眷属達と手を切り、立ち還れ。あなたたちに許しの機会がある。この地にあって、天の栄光を知れ。」

 それに呼応するようにリサが叫んだ。

「底知れぬ所より出てきたルシファーの眷属たちよ、退け。」

 それを聞いた敵軍は、総崩れとなった。城壁の外では、大猪達が散り散りになり、城壁内では、バンパイアや狼迄が門から東の山々へと逃げていった。


 荒野を東にさらに一ヶ月ほど進む。俺たちは、ちょうど古代のモンゴル帝国の進軍ルートを逆に辿っていることになる。

 アラコル湖に出ると、その湖畔には二つ目の要塞があった。湖水に面したカルデラの城塞は、灯りも守備隊の姿もなく不気味に静まっている。城門は閉じられているが、警戒する見張りは見当たらない。

「空から見ても、誰もいないぜ。」

 ソニックは、降りるなりそう言った。

「一応中を見に行く必要があるのではないかな。」

「ブービートラップじゃないの?。」

「そうだね。中に入り込んで戦力を失うよりは、監視兵を少数残して先に進もう。」

「それより爆撃して仕舞えば良いよ。」

「あの施設はそんなに弱くはない。爆撃や砲撃では、伽藍やその中まで破壊できないよ。」

「中には入らないけど、見張りは必要だね。バイソンの部隊を少し残そう。」

 

 こうして、俺たちはさらに一ヶ月を要してカーラス湖まで東進した。湖に面したジャーガラントハイラーンには、今まで見た要塞よりも大規模な要塞が築かれていた。


 俺たちの補給線はさすがに伸びきっている。今後の進軍を考慮して、イメルリ達は共和国の本拠から殆どの部隊を増援として得ることにし、俺たちは要塞の周囲を注意深く観察し続けた。要塞側は、必ずしも俺たちの動きを予測したものではないものの、規模の大きい守備軍が陣形を整えていた。要塞の上空には不気味な黒雲が蠢き続け、ベヒーモスまで出張って来ている。此処は簡単には落とせそうにはなかった。


 俺たちは一ヶ月ほどで準備を整えた。先ず、イメルリ達バイソン群が正面から攻め始めた。押し出したイメルリ達はやがて敵を誘うように全軍を引き上げていく。それに応じて大猪たちが中央突破を図ろうと突撃してくる。バイソンの遊撃部隊がその横を突いた。

 しかし、今回は大猪たちは側面からの攻撃に構わずに直進していく。それを追うバイソン達。大猪達はジャーガラントハイラーンを廻るようにして走り抜けていた。バイソンたちはそれを追いかけていく。様子がなにかおかしかった。


 大猪たちは要塞を巡るコースを突き進んでいく。大猪達の隊列は群の中の速い者たちがいて、群全体が縦に長くなり始めた。バイソン達の群れでは、速度の遅いもの達が遅れ始め、群全体がやはり縦に長くなり始めた。大猪達はやがてバイソン達の背後に追いついて来た。遂には、互いに互いの最後尾を潰し合う陣形となった。

「このままでは補給に限りがある俺たちが不利だ。」

「上の黒雲の動きがおかしいわ。」

 サヤが何かに気づいたように空を指差す。上空にはベヒーモスの姿があり、それが大猪達を操っていた。

「あれは何?。」

「あれはベヒーモスだな。」

 ソニックが思い出したように言った。

「そうだ。それならメデューサに粉々にしてもらおう。」

 サヤがメデューサに指示すると、彼はベヒーモスを散り散りに割いた。やはり大猪達の隊列は散り散りになり始め。それをきっかけに、守備側は混乱の渦に陥入り始めている。

 その隙をついて、俺たちはカルデラの城壁を駆け上がった。ただし、サヤがベヒーモスを蹴散らかしているメデューサに指示を出し続けている為、今回はリサと俺とだけで伽藍の柱を崩すしかなかった。

 俺たちは、まず第一の柱を破壊した。続いて第二、第三の柱を破壊し、大伽藍の反対側へと走り抜けた。大伽藍を出ると同時に要塞の崩壊が始まった。俺たちがカルデラから脱出しても、まだ外は機動兵同士の戦いの最中だった。

 リサが城壁の上に立ち、サヤ達に呼びかけた。

「ひきあげよう」

 そこへ、砂埃が起きた。敵側の小さな遊撃軍。容易いと思ったのだが、彼等は眷属龍達の一団だった。

「アサシンめ、このまま生きては返さんぞ。」

 彼等には、俺たちが強力なアサシンに見えたのだろうか。破壊の張本人を見つけたでも言うのだろうか、俺達の周りに堕天龍の眷属龍の貪龍、淫龍、拘龍、怒龍、傲龍、虚龍が現れた。

 俺とリサは、サヤに助けを求めた。サヤは、メデューサとともに城壁の上空から敵全軍や眷属龍たちへ大声で叫んだ。

「ちょうど良い頃合いね……。「帝国の住人達よ、貴方達はこのままでは滅びる。ルシファーの眷属達と手を切り、立ち還れ。あなたたちに許しの機会がある。この地にあって、天の栄光を知れ。」

 それに呼応するようにリサが叫んだ。

「底知れぬ所より出てきたルシファーの眷属たちよ、退け。」

 眷属龍たちはそれを聞いていきり立ったように押し寄せてきた。メデューサはたちまち巨大な剣の姿となり、龍達の前に突き刺さる。多くの龍達は金縛りにあったように動かなくなった。しかし、一頭の龍が俺をめがけて突っ込んで来る。虚龍だった。

「おのれー。」

 隙をつかれた俺は、なんとか一撃を受け流した。手強い相手だ。

「お前は猫又のグーか。」

「おまえは虚龍!。」

 虚龍は、以前俺にやられたことを覚えており、間合いを詰めてくる。

 しかし、長居する必要はなかった。虚龍めがけてメデューサが鱗を多数刺し投げ、俺たちはサヤとイメルリたちが引き起こした町全体の崩落に応じて、立ち尽くす虚龍を残して早々に逃げ出した。


 その後も俺たちは荒野の中を東を目指した。イメルリ達によって、程なく春の草で緑の濃くなっ地に至っている。エルデネマンダルの草原だ。そのはるか東の地平に揺らめく百楼城塞。それがノドの帝国の都だった。

 その城塞は、様子が今までの要塞とは異なっていた。守備隊は城壁の外にはいない。俺たちはそれを見て、おそらくは多数の狙撃手が広大な城壁の中で縦横に配置されていると見立てた。地の利を生かして侵入した敵を少しずつ削っていく作戦だろう、と。そこで俺たちは、イメルリ達機動部隊をを城塞の外に待たせ、少数で潜り込むことにした。

 いくつもの門をくぐり、街角をやり過ごした。隠れているはずの敵はなかなか襲ってこない。何かがおかしかった。

 サヤが大きく呼び掛けた。

「帝国の住人達よ、貴方達はこのままでは滅びる。ルシファーの眷属達と手を切り、立ち還れ。あなたたちに許しの機会がある。この地にあって、天の栄光を知れ。」

 それに呼応するようにリサが叫んだ。

「底知れぬ所より出てきたルシファーの眷属たちよ、退け。」

 何か、反応はないか。風の音、何かが転がる音。街中にはサヤたちの声が虚しく響くだけ。

 サヤは呼びかけを続けた。

「…あなたたちには許しの機会がある。この地にあって、天の栄光を知れ。」

 なにも答えない、いや、音さえ響かない。次にむリサが叫んだ。

「底知れぬ所より出てきた眷属たちよ。……。」

 単に呼びかけるだけでも、なにも起こらない。結局この区画では、誰の姿も見ることはなかった。

 さらに奥へ進んでいくと、動きのある区画が有った。目立つのは亜人達のみ。ここの区画は、非武装の亜人達しかいなかった。

 ソニックがイメルリを呼んだ。この城塞の城門は、やはり守り手がいなかった。イメルリたちは城門をを粉砕し、そのまま俺たちのところまで押し寄せて来た。

 こうして城門は開け放たれ、バイソン達がここまで障害物を排して広く真っ直ぐに大路を作り上げて進んできた。敵軍が侵入してきたのに、行き交うもの達は俺たちに気も止めない。止める者がいないのでそのまま歩きながら、叫んだ。

「この街は滅びる。」

「天の栄光を知れ。」

 ところが聞こうとするものは一人もいない。確かに目の前にいるのだが、俺たちが居ないもののように無視していってしまう。

 一人を捉えて強制した。確かにその場は聞き続けるのだが、目は死んでいる。

「もう、結構だ。」

 彼等はそう言って俺たちに少し反発すると、さっさと道へ戻って行ってしまう。彼等は自動機械の魔道具だった。

 俺はふと思いついた言葉があった。彼らの一人を捕まえて、その言葉を言ってみた。

「皇帝オーブルミルフィー、万歳。」

「それは異なっている。現皇帝陛下の名はオーブルミルミ様。オーブルのエカテリーン朝第二十六代皇帝オーブラン十五世であらせらる。」

 彼はそう言うと、元の道へ戻って行ってしまった。

 さらに聞き調べていくと、おおよそのことがわかってきた。新たな皇帝の名はオーブルミルミ。オーブルのエカテリーン朝第二十六代皇帝オーブラン十五世。彼はミルフィーの息子だという。ミルフィーは退位し、オーブル族の帝国が滅びて二十年経っていることになる。この帝国は、かつてのオーブル族の帝国なのだろうか。

 この首都にバンパイアや狼どもは一人も見当たらなかった。自動機械しか動いていない都市。ここは本当に新たな帝国の首都なのだろうか。


「これは幻影術。」

「彼等はここに俺たちを引きつけておきたいらしい。」

「罠だ。」

「共和国と、エゼキエルの谷が襲われる。」

 その一言に俺たちは戦慄した。

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