第3話 能力
窓際の席で俺は妹と昼食を取る。
普段俺は母親が作ってくれている弁当だが、今日は朝早く起きた妹が作った様だ。
中身はシンプルだが、色とりどりの野菜や肉類などでバランスが良く取れている。
家事スキルが高い妹からすれば、こんなものは朝飯前だろうが、忙しい朝にここまでのクオリティの物を作れるのは流石としか言えない。
「それじゃあ食べよっか」
「ああ、いただきます」
まずは箸で玉子焼きを頂く。
母親が作ってくれる玉子焼きは甘口のものだが、妹のはだし巻き玉子だ。
実はこちらの方が好きなのだが、そんな事は実の親にも言ったことがない。
普通の人間なら一度も言ったことがない好みに合わせて料理を作る事は出来ない。
しかしそれは俺の妹なら可能になる。
それは妹の能力『テレパシー』がそれを可能にしている。
妹が異能を授かったのは去年の事だ。
その能力が無かった頃の妹は、お淑やかで温厚な女子中学生だった。
しかしその力を手にした途端に、妹はその能力を最大限に活用しだした。
『テレパシー』は周りの者の思考を読み取る能力であり、他にも声を発さずに相手に話しかけることもできる。
妹が何処まで出来るかは知らないが、思考を読み取る事は出来ている。
それは確認済みだ。
「最近お兄ちゃんが考えてる事がわからないなぁ」
「能力も万能ではないんだってことさ」
「お兄ちゃんも実は目醒めてるんじゃない?」
額に指を当てて妹は能力を使う。
別に使用した際に指先が光ったり、身体からオーラの様なものが出るわけではないが、妹が能力を使うときは決まって額に指を当てる。
本人曰くしなくても良いらしい。
妹はテレパシーを使って相手の思考を常に読んでいる。
深層心理をも読み取れるその能力で、相手がどんな人間かを把握してから相手と話す。
普段人がどれだけ猫を被っているか、どんな気持ちで友人と接しているかを知った妹は、人間の汚さや悪意を読み取れるその力の所為で、周りの皆を完全に見下してしまった。
しかし俺に対してだけその能力で思考が読めない。
それは俺も最近目覚めた自身の能力『シャットアウト』を使っているからだ。
この能力自体は一般人には意味を成さないが、妹に対してだけは効果絶大だ。
首輪を付けられて身動きを封じても、俺の心までは読ませまいと、能力で妹の能力を妨害していた。
「まあいいや、お兄ちゃんの思考が読み取れないから首輪を付けたんだけどね」
自分勝手で傲慢な妹は弁当に意識を向ける。
こんな事になるなら能力なんて使わなければ良かったと本気で思ってしまう。
思考を読まれるのと、自由を奪われる。
どちらが良いかなど火を見るよりも明らかだ。
「それより帰りは教室で待ってて……『ピローン』」
話を遮るように俺のスマホが通知を告げる。
画面を見ると一華からのメールだった様だ。
『帰りは一緒になれそう?』
そのメールを見て俺は瞬時に画面を消す。
しかし俺の狙いは悲しくも達成されなかった。
「へぇ……」
妹は不敵な笑みを浮かべて俺に尋ねてきた。
「いつもそういうメールが来るの?」
「ま、まあな」
「ふーん、私のお兄ちゃんに手を出していた阿呆が居たのは知らなかったな」
全てを把握している妹でも、直接確認しなければ分からないメールだけは知らなかった様だ。
それを見た妹は食事を終えて午後の授業の準備を始めた。
「帰りは今日から私とだから、後でお兄ちゃんのクラスに行くね」
妹のお陰で腹は膨れたが、胸は不安で膨れてしまった。
いますぐにでも逃げ出したいが、首輪の所為で学校から出られない。
俺は力なく自分のクラスに戻るのだった。