Smoking rain.
霧雨の中、咥え煙草の細い煙。
背の高い猫背の君が、夜に滲んだ常夜灯の向こう側へ遠ざかる。
私は掛ける言葉を探す間も無く、その背中に縋った。
「ごめん、ごめんね・・・」
薄いコートを握り締めて絞り出した言葉は、私の心の一割も表せていない。
振り返った掴み所のない優しい眼差しが、私の不安を煽る。
ぽん、と私の頭に手を置いて少しだけ目を細めて笑った君は、さらりと私の前髪を掻き上げ、額にそっと唇で触れた。
私に視線を合わせる為に屈んだ君のシャツから、ちらりと骨ばった鎖骨が覗く。
ちゃんと御飯食べてるのかな、なんてぼんやりと思いながら、反射的にその広い胸板へ抱き付く。
「あ・・・あのねっ、あのっ・・・」
言葉より先に涙が溢れて、思考がまとまらない。
そんな私の胸中を察した君は、ただただ優しく私の頭を撫でて抱き締めてくれる。
「うん、大丈夫だから」
「・・・っく、ごめ・・・っ、ごめんっ・・・」
心配かけちゃいけないのに、ちゃんと待ってるって決めたのに、苦しくて不安で涙が止まらない。
「ちゃんと、待って・・・待ってる、から・・・!」
それだけ言うと、私は爪先立ちになって君にキスをした。
眼鏡越しに、少しだけ驚きで見開かれた君の瞳が見える。
これ以上、涙でぐしゃぐしゃになった顔を見られないように、私は俯いて君から離れようとした。
けれど、君は私を抱く腕に力を込めて、逃げる事を許さない。
「ちょっとだけ待ってて、すぐ戻るから」
いつもと変わらない調子でそう言うと、君は私の頬へ手を添えて、そっと優しいキスを落とした。
最終電車が通り過ぎる。
電車の窓から漏れた明かりが、ひとつに重なるシルエットを濡れたアスファルトに焼き付けていった。