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6.女騎士は神官長(男)の将来が不安で仕方ない

「神官長!!助けに参りました!!」


 黒い鎖につながれて、怪しげな魔法陣の上で今まさに魔王復活のための生贄に捧げられそうになっている神官長に、もう何度目になるかわからないセリフを叫びつつ、私は駆けつけた。

 ここは魔族が勝手に築いた小さな砦。そこに彼は捉えられ、魔王復活のために魔力を搾り取られていのだ。


「キサマ何者だ」


 黒い翼に巨大な角を生やした、生けとし生ける者の天敵、魔族がこちらに振り返りますが


「五月蝿い」


「ごふぅ!!」


 情けない声をあげて私のパンチ一撃に沈む魔族。

 他の魔族が私に襲いかかってきますが、知りません。邪魔です。目障りです。

 私は他の魔族もパンチのその衝撃だけで全滅させた。

 本来剣や魔法など無力化するはずの魔族ですが、聖気をまとっている私には単なる雑魚でしかありません。


 ついでなので魔法陣も木っ端微塵に破壊すると、神官長の元へ駆けつける。


「大丈夫ですか?神官長?」


 鎖を引きちぎり彼を引きずり下ろせば、私を確認して力なく微笑んだ。

 強引に魔力を魔法陣に注がれたせいなのでしょう、その瞳は虚ろで、焦点があっていない。


「……これは夢でしょうか?」


 混濁した意識の中、彼はそっと私に手を伸ばすと――


「例え夢でも……最後に会えたのが貴方でよかった」


 言って微笑み、そのまま意識を失ってしまう。

 まったく……本当にこの人のお姫様体質には困ったものです。

 この人は悪霊を払うための聖なる力などという特殊な力を持ってしまったがために、魔族やドラゴンなどに狙われ、ことあるごとに誘拐されてしまい、私に助けられるというのを繰り返しているのです。

 今回は、私が王都を離れていたために、助けにくるのが遅れてしまいました。

 そのせいで、もう少しで魔王復活の生贄に捧げられそうになってしまったのですが。


「縁起でもないことを言わないでください。

 最後などではありませんよ。神官長。

 貴方を死なせたりしませんから」


 ええ。死なせるわけがないじゃないですか。

 誰もが腫れ物を扱うかのように、私と距離をおくなか、勝手に私のスペースにズケズケ踏み込んできたのは貴方です。

 散々私のスペースを荒らしておいて、無責任にこの世界から消えるなどと、神が許しても私が許しません。


 私は普段は隠している背中の羽を広げると、集中する。

 そしてそこにある生けとし生けるもの全てに私は祈った。

 空・木々・大地――全てに眠るその魔力を羽に集め、その魔力を神官長へと注ぎ込む。

 既に滅んだといわれた竜人の私だからできる術。

 まさかこんな所で忌み子の力が役立つとは思いませんでした。

 応急処置でしかありませんが――何もしないよりはマシでしょう。


 だいぶ注いだ所で――


「んっ……」


 神官長の眉がぴくりと動く。

 大分顔色もよくなっている。

 これなら大丈夫でしょう。


「………ここは……?」


 ぼんやりと目を開けた神官長が私を見て微笑むと


「ああ……また貴方のお手を煩わせてしまったようですね」


 と、おっくうそうに手をあげようとし、力が入らないのかあがらない。


「じっとしていてください。神官長。

 魔力が大量に身体の中からでていってしまったせいで、神経回路がうまく動かないのでしょう」


 私の言葉に神官長ははっとした表情になり


「そうでした!?魔王は!?魔族はどうなったのでしょうか!?」


 と、慌てていたのか無理に起き上がろうとしますが、起き上がれず、私の腕のなかでバタバタしているだけの格好になる。


 どうしましょう。彼は至極真面目に行動しているのでしょう。

 ですが、じたばたと起き上がろうとして起き上がれない姿が不謹慎ですが可愛すぎます。


 私は必死に笑うのを抑えながら


「魔族なら倒しました。魔王は貴方が生きているということは復活していないということです」


 魔族が視界に入るように抱いてる向きをかえてあげる。


「20体の魔族を全部倒したのでしょうか?」


 倒れている魔族を確認したあとポカンとした表情になる彼に


「はい。全部で39体いましたが。取りこぼしがなければ全部倒しているはずです。

 あとで死体は回収しておきましょう」


 答える。彼はしばらく呆然とした表情のまま固まり――ため息をつくと


「……貴方がいれば魔王が復活しても、余裕で倒してしまいそうですね」


 と、微笑んだ。

 ええ、たぶん魔王も余裕で倒せると思います。

 けれどそれをいえば彼のプライドがまた傷ついてしまうかもしれませんのであえて言いませんが。


「私は……貴方の隣に立てる日はくるのでしょうか」


 自重気味に言う彼に


「私としては、こうして抱っこされている方が可愛らしくていいと思うのですけれどね」


 そう言うと、彼は顔を真っ赤に染めて


「男にそれは褒め言葉にならないと思うのですが?」


 情けない顔で神官長が抗議してくるが、私はそれを笑顔で封殺した。

 私の笑顔に、いつもの経験から敵わないと判断したのか


「……私を子供扱いするのはレイナくらいですよ」


 と、ため息をつく。


「私に子供扱いされるのは嫌ですか?」


 ワザと耳元で甘く囁くように言うと、先ほどまでも赤かった顔がさらに赤くなり耳たぶまで熱くなっている。


「い、嫌とか……そういう問題じゃないですっ!!

 いえ、そのあの……でも嬉しいなどと言えば年上の男としてどうかと思いますしっ!!

 ああ、でもレイナのことは好きですから嫌じゃないのですが!!


 えっと、その……あのっ!!」


 あわあわとしたあと


「……やはり、貴方は意地悪です……」


 と、涙目で私を恨めしそうに睨んだ。彼にしてみればこれが精一杯の反抗なのでしょう。

 私から言わせれば、虐めてと誘っているとしか思えないのですが。


「ええ、意地悪ですよ私は」

 

 言って彼の耳に息を吹きかけてみれば――


「――●✖▲■!??」


 声にならない悲鳴をあげて、あわあわとしたあと――卒倒した。


 困りました。

 ……平民感覚でこれくらいなら冗談の範囲かと思いましたが……

 生まれた時から神殿で神の子として大事にそだてられ、そういった経験のなかった神官長には少し刺激が強すぎたようです。


 ……というか、このお方はこれくらいで失神してしまって、最後までコトを行うことができるのでしょうか?

 箱入りすぎるのも問題ですね――私は彼のあまり明るくなさそうな未来を心から心配するのだった。


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