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5.女騎士は神官長(男)が可愛くて仕方ない

「神官長!!助けに参りました!!」


 乱戦状態でキマイラとヒュドラ闘う神官長に私はいつものセリフを叫んだ。


「レイナッ!?」

 風の魔法を身に(まとい)、ひょいひょい怪獣二匹の攻撃を避けながら神官長が私を確認して叫ぶ。


 そして、私の登場など、まったく意に介さず、闘うキマイラとヒュドラ

 はい。なんでしょう。この怪獣大戦争状態。

 森の中で魔物に襲われたと、何時ものごとく神官長を置いて逃げ出してきた護衛の一人の報告で慌てて駆けつけてみればこの状態です。

 キマイラもヒュドラも本来天災級の魔物と呼ばれ、この200年目撃情報もなかった魔物のはずなのですが。

 何故か神官長をとりあって争っています。


 はい。あれですね。


 これが貴族のお嬢様方に流行してる絵巻物にでてくる「お願い私のために争うのはやめて!」状態なのでしょうか。


 なんですか、それ両手に花状態ですね。

 モテたい願望ですか、と、馬鹿にしていましたが……。


 まさか現実でお目にかかるとは思いませんでした。

 ただ問題なのはお姫様が30代男性で、争っているのが騎士ではなく、キマイラとヒュドラという天災級の魔物という点ですが。

 まさか魔物相手にすらお姫様体質を発揮するとは、流石神官長です。

 もう前世がお姫様だったと言われても疑うものは誰もいないでしょう。



 私は神官長に結界を纏わせる。

 これでキマイラとヒュドラ程度の攻撃は無効化されるはず。



 それにしても許せないのは私を差し置いて勝手に争っている件です。

 なんですか。所有者を無視して勝手に争わないでください。

 はい。神官長は私のです。誰にも渡しません。

 私の怒りの鉄拳は、容赦なくキマイラとヒュドラを木っ端微塵に打ち砕くのだった。



△▲△▲△▲


「レイナ、ありがとうございます。助かりました……」


 怪獣二匹を倒したのを確認した神官長が、緊張の糸が切れたのかその場に倒れ込む。


「大丈夫ですか?神官長……」


 言いかけて、私は気づいた。

 神官長の顔色がかなり悪い。よく見れば、ちぎれてしまった神服の間から覗く腕は青黒く変色していた。


 まさか――ヒュドラの毒?


 一度その毒に犯されれば、不老不死の神でさえ、その激しい痛みに自らの命を差し出してしまうという言い伝えを聞いた事があります。

 もしヒュドラの毒なら聖女様でも回復できるかどうかわからないのです。


 つまり、ヒュドラの毒だとしたら……待つのは死。そんなことはありえません。


「神官長!?まさかヒュドラの毒に!?」


 私が慌ててその腕をとり、神官長に尋ねれば、


「いえ、すみません。ヒュドラとキマイラの前にキラービーの大群に襲われまして……その時の毒です」


 神官長が物凄く申し訳なさそうに訂正する。



 ……。


 …………。


 ……………。


 なんと紛らわしい!?

 ヒュドラに襲われるそのタイミングで、普通キラービーに襲われますか!?

 ああ、私が心配したその時間を返してください!!


 つい、慌ててしまったのが顔にでたのか、神官長がニコニコとして


「レイナでも、慌てる事があるんですね。

 心配してくださってありがとうございます」


 と、微笑んだ。


 う、なんでしょう。この幸せそうで勝ち誇った顔は!?

 神官長が私より優位に立つとかプライドが許しません。


「当たり前です!神官長にもしもの事があったら、私は神殿勤めからまた田舎騎士へと逆戻りです!

 給与が下がって、美味しいモノが食べられなくなります!困ります!」


 と、ハイテンションで言ってのける。

 神官長は少し悲しそうな顔をして


「そ、そういった理由だったのですか……」


 と、見るからに落胆した。

 はい。その表情が可愛いですね。ごちそうさまです。


 私は手早く、神官長の左腕の根元に自らの破ったマントを縛り付けた。


 そしてそのまま、キラービーに刺された部分に口を付け毒を吸い出し、地面に吐き出す。


「―――●✖△□!?」


 神官長が声にならない悲鳴をあげた。

 顔どころか、首から手まで見える部分全てが真っ赤になっている。

 はい。単なる医療行為にまで照れるところが、彼がいかに女性に免疫がないのか物語っています。


「!?そんな事までしていただかなくても!?

 毒消しで治りますから!!」


「毒消しで解毒できても、傷口を放置しておけば、傷口が化膿します。

 悪化させて、聖女様のお世話になりたいのですか?」


 と、私がにっこり微笑んで聞けば、神官長は困った顔になる。

 最近は神官長と私の仲を疑っている聖女様が、治療を頼むとそれを理由に神官長に何かしら頼み事をしてくるようになったのだ。

 デートだったりデートだったりデートだったり。


 ああ、全部デートでしたね。本当にわかりやすいお嬢さんです。


「そ、それも困りますね……」


「なら問題ありませんね」


 と、わざとチュっと音をたててもう一度口をつければ、神官長の顔がみるみる赤くなった。


「レ、レイナ……その、からかってませんか?」


「何の事でしょう?」


 と、にっこり笑顔で返せば


「貴方は意地悪です……」


 少しふてくされた顔になる。その顔が可愛いので、つい虐めてしまうのですが。

 意地悪ついでに、不意打ちでそのまま彼をいつもの感じで抱き上げれば、あわあわと足をばたつかせ、私の顔を確認すると、諦めたかのようにため息をついた。


 はい。意地悪ですみません。

 私を護衛に雇ってしまった事をこれからたっぷりと後悔させてあげますよ?

 ね?神官長様?


 私はいつもの感じで彼ににっこりと微笑むのだった。

 

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