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3.女騎士は神官長(男)が心配でたまらない

「神官長!!助けに参りました!!」


 リザードマンの群れと闘う神官長に私は何度目かになるセリフを声かけた。

 彼の後ろには数人の護衛と、子供だろうか、可愛い魔物を抱きかかえた少女が身を縮めてうずくまっていた。


「レイナっ!?」


 神官長が私の姿を確認して驚きの声をあげる。


 ここはマナル平原の小さな村。

 神器を扱うという神聖な村なのですが……

 何故か神官長が村にお祈りにきたそのタイミングでリザードマンの襲撃をうけたらしい。


 神官であるフランツに頼まれ駆けつけてみればこのざまです。


 そして毎回思うのですが、もう少し彼につける護衛の質を考えた方がいいのではないでしょうか?

 何故いつも神官長が守る立場になっているのか不思議でなりません。


 そう、彼の護衛を命じられて、気づいたのですが、このお方は物凄いお姫様体質なのです。


 どれくらいお姫様かといいますと、私が護衛に就任して以来、すでに4回誘拐されたり、5回ほど誘拐されかけたりしている筋金入のお姫様だったりします。

 普通ではありえない誘拐回数に目眩を覚えます。

 彼の名誉のために言っておきますが、彼は決して弱いほうではなく、エルフや人間などの中では強い部類でしょう。


 ただ極端に頭が弱――ではなく、人が良すぎるのです。

 頭も決して知能面では悪くないのですけれど……私から言わせると馬鹿です。

 いつも他人を助けようとして、自分が捕まり、私に助けられるというのを繰り返しています。

 

 よく誘拐される絵本のお姫様も真っ青になるほどのお姫様体質のくせに、やたら張り切って前線に出張る癖はやめていただけないでしょうか。

 こちらの神経が持ちません。



 ――ええ、別に心配などしていないのですよ?



 彼の護衛は給与がいいですし、何より辺境の田舎騎士をしているより待遇がいいからです。

 そうです。今の好きなものが好きなだけ食べられる給与が貰えるという素晴らしい環境のためには彼に死なれたら困るのですよ。


 決して心配などしていません。


「レイナっ助かります!

 村人や護衛に結界を張っていただけますか!一気に片付けます!」


 言って神官長が詠唱をはじめる。

 まぁ、私が倒した方がはやいとは思うのですが……

 私が広範囲技を使うと、その場所は5年くらいは草木も生えない荒野状態になりますからね。

 彼に任せたほうがいいのでしょう。


 などと高みの見物を決めつけたその瞬間――ゾワリとした感覚がこみ上げてくる。

 どくどくと何か黒いものが流れ込んでくる感覚。


 私は考えるより先に神官長の場所に飛び、彼を抱え込んでいた。


 刹那


 神官長の居たその場所に黒い槍が通りすぎる。


「なっ!?」


 神官長の背後にいた少女が放った呪文が虚しく宙をきったのだ。

 ――ああ、してやられた。あの小さな魔物を抱え込んでいたせいで、魔物だと気づくのが遅れてしまった。

 少女は鋭い牙を覗かせながら、チッと舌打ちをし――私の放った殺気に殺される。


 問題は、神官長は詠唱中に抱きかかえられてしまったために、放とうとしていた魔法の制御に手間取っていた。

 なんとか魔力の源である魔力核を制御しようとするが――


 うまくいかず――それは爆発するのだった。



 △▲△▲△▲△▲△▲


 私が神官長に張った結界は、外部の者の攻撃は弾くものの、自ら放った魔法までは弾けない。

 自らの魔法の暴走を結界は防いではくれないのだ。


 判断を誤った。いつもならしないミスを私はしてしまった。

 本来ならあの魔物の攻撃は私の結界で防げていたはずだったのに。

 考えるより先に、彼を助けたい一心で抱きかかえてしまったのだ。


 結果、彼は自分の放つ予定だった魔力の直撃をくらい――全身に酷い火傷を負った。


 全てを癒す回復の呪文を使う事のできる聖女様の治療でなければ完治しないほどの酷い火傷を。


 彼を抱きかかえ、聖都に戻るまでの間――気が狂うかと思うほど、彼が心配でたまらなかった。

 ヒューヒューと口から無理やりする呼吸が時々止まるたび――死んだのではないかと泣きそうになった。


 私が街で売っていたお菓子が美味しかったなどといえば、わざわざ平民の格好をして買いに行き――誘拐されたり。

 一度貴族しかいけないレストランで食べてみたいものです、などと話の流れで言ってみれば、こっそり連れていってくれて――誘拐されかけたり。

 護衛中なんとなく庭園の花が美味しそうだなぁーなどと眺めていれば、両手いっぱいの花をプレゼントしてみてくれたり。


 どんなに突き放してみても、笑顔で接してくれて。

 イヤミも嫌がらせも、その天然思考で躱されて。


 持て余す力に――実の親にさえ、気味の悪い子と捨てられた自分を、彼は怖がる事など一度もなかった。

 皆が恐れて近づくことすらしないこの私に好意をもって接してくれたはじめての人だった。


 ああ。そうですね。悔しいですが認めましょう。


 もし、恋というものが、失いたくないほど大事な人のことを言うのなら、きっと私はこの人が好きなのでしょう。


 聖女様の回復魔法を受けるまでの間――私はずっと祈るのだった。

 どうかこの人が助かりますように――と。

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