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俺達は遅めの朝食を取り直ぐに出発した。
幸い次の分岐を超えるまで誰にも遭わずに済んだので、あの血まみれの街道を見て騒ぎになっても犯人の特定は難しいだろう。
二日後には国境を越えマハン王国へ入国。途中で道を聞きながら王都へと向かった。王都に入る前日の野営時にずっと考えていた事を皆に話した。
「・・・・・聞いて欲しい事が有るんだ・・・俺達との関係は、荷運びを依頼した旅商人って事にして欲しい。ドラゴンの事も含めて誰かに聞かれても何も知らないと、そう言う事にした方が良いと思うんだ」
俺の提案にゴタード家の面々は「そんな恩知らずな真似は出来ない」と口々に言う。
「でもな、ドラゴンを従えて問答無用で攻撃して来る様な奴等なんだぞ。俺達と別れた後に対峙したとして、勝てないまでも逃げ切れるのか?折角一からやり直そうってのに逃亡生活で良いのかよ」
三人を何とか説得した翌日、マハン王国王都クライアへと到着した。
クライアの第一印象は兎に角広いの一言に尽きた。二十万人規模の王都は王城を中心に八方向に伸びた主要道が王城、貴族街、平民街を隔てる城壁を抜け、更に二重の外壁を抜け外へと繋がっていて、上空から見る事が出来れば蜘蛛の巣の様に見えるだろう。外壁と外壁の間には兵舎や訓練場等が有り、警備も厳重だった。
当然の様にバイクに関して厳しく詰問されたが、商業ギルドの登録証とゴタード家の三人が取り成してくれたお陰で、余り長い事掛からずに開放された。
街に入り、先ずは商業ギルドでエイルの親戚が経営している商会の場所を聞き、南西外周寄り地区へと向かった。兎に角広いこの街は東西南北とその間に分かれていて、その中でも更に外周寄りと内周寄りに分かれている。幸い道幅は広くて移動は問題なかったが、慣れないと直ぐに迷いそうな広さだった。
「・・・・・なぁ・・・エイル、本当にここで良いのか?」
「た、多分・・・ここで良い筈・・・です・・・・・看板も合ってますし」
見上げる巨大な建物には『アクアフィールズ商会』と書かれた看板が掲げられていた。取り敢えず確認して来るとエイルは中に入り、暫くすると一人の男を連れて戻って来た。
「良く来てくれたね、歓迎するよ。長旅で疲れたろう?こんな所で長話と言うのもなんだ、中でお茶にしよう」
「あ、ちょっと待って貰えますか。私はニールと言う旅商人なんですが、ゴタードさん達の引越しの荷物を預かっているんです。住む所が決まり次第搬入したいので、待つ間の宿を紹介して戴きたいのですが」
「・・・・・ああ、それなら斜め向かいにすると良い。明日か明後日にでも知らせの者を向かわせよう」
男はそれだけ言うとエイル達を連れて店の中へと入って行ってしまったので、取り敢えず勧められた宿え向かったのだが・・・・・
「は?食事無しのシングルで一泊銀貨五枚?!随分高くねぇか?」
今まで立ち寄った街の相場では一泊二食付きで銀貨三枚前後だった。
「はぁ、そう仰られましても・・・家はまだ安い方ですよ。他国から初めて来られた方は皆そう仰いますがこればかりは・・・・・どうなさいます?」
取り敢えず保留にして近くの商店を覗いてみたが兎に角値段が高い。商業ギルドへ仕入れ値の調査に行ってみたが、食品以外の鉱石等の資材関係も軒並み二割前後高かった。ふとエイルの親戚の態度が気になって職員にエイルの作った指輪の査定をしてもらった所、マモン王国で売っていた値段の約五倍で買い取ると言う。
俺は嫌な予感がして急いでアクアフィールズ商会へと戻り、商会員に緊急事態だと告げて半ば強引にエイル達の所に案内させた。
「失礼する!急用だ!悪いがゴタード家の三人以外は外して貰えるか」
「何だね君は、宿で待つ様に言っただろう。此方も大事な話をしている所だ、君が外したまえ」
部屋の中央に有るテーブルに向かい合って座るエイル達とその親戚の間には、幾つかの書類とペンとインク壷が置かれていた。
「ニールさん、そんなに慌てて一体どうしたんです?」
「すまんエイル、重要な話が有る。場所は何処でも良いが他人の居ない所で話がしたい」
「え?・・・今こっちも雇用契約の話を詰めている所で・・・・・」
「ちょっと待て!まだサインするなよ!その契約書見せてみろ!」
テーブルまで早足で近寄り契約書と思しき紙を手に取ろうとした瞬間、親戚の男が覆い被さる様に書類を隠した。
「な、何だね君は!契約書の内容を他の者に見せる訳ないだろう!兎に角出て行きたまえ!」
「お、叔父さん?ニールさんは此処まで色々お世話に為った方ですから大丈夫ですよ。ニールさんも少し落ち着いてください」
「・・・ふぅ・・・・・エイル、俺は冷静だ。だが・・・今のそいつの態度で全て解った。三人共此処を出るぞ!付いて来い!」
エイルの手を引き強引に席を立たせ部屋を出ようとすると、親戚の男が入り口の前に立ち塞がった。
「待て!三人共家で引き取る事になっているんだ!何処に連れて行くつもりだ!」
「・・・・・はぁ・・・せめてあんたの居ない所で、と思ったんだが・・・・・エイル、良く聞け、この街は他の国より物価が二割前後高いぞ。それと商業ギルドでお前の作った指輪の査定をして貰ったんだが・・・・・マモンで売ってた時の五倍の値が付いた。どう言う契約内容かしらねぇが、お前ならもっと稼げるんじゃねぇのか?」
「・・・・・そ、そんな・・・・・お、叔父さん・・・俺の事・・・騙そうとしたんですか?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・それが答えですか・・・解りました・・・・・そこを退いて下さい・・・行こう、皆・・・・・」
項垂れるゴタード家の面々を連れてアクアフィールズ商会を出て、少し離れた食堂で個室を取って今後の話し合いをする事にした。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




