096.爺、何処へ連れて行くのじゃ?
加護を下賜くださった女神様の御御名を確認を行うゆえに拝殿にて参ったらのぅ、寵愛を得てしもうたわえ。
うむ、これが事故と言うものなのかのぅ…
擦れておらぬ箱入り娘っと言った感じの、言わばチョロイ系な娘子っと言ったら良いのじゃろか?
いや、不敬ゆえに口には出さぬがの、しかし…
流石に賜ったお言葉の内容は口にはのぅ。
っか、言えるかや、あげな内容をっ!
しかし…明らかに天使殿は苦労しておりそうだてな、気の毒にのぅ…
しての、儂がの、女神アルスラーナ様の寵愛を得たと知りシスター2人が大慌てでのぅ。
大司祭様や教皇様へと報告をっと…いや、大袈裟すぎぬかえ?
いやのぅ…大教会内がの、蜂の巣を突いたような大騒ぎになっておるような…はは、気のせいかのぅ?
いや、儂…帰って良いかえ?えっ、駄目、さいですかえ。
ふむ、なんの騒ぎなのかのぅ…案内された貴賓室にて遠い目をしつつ茶をいただいておるとな、何やら呼び出しがの。
エルダ殿は対応に追われて既に席を外しておる。
ゆえにアンジェリン殿のみ傍らへと控えておるぞい。
その彼女を伴い、案内へと現れたシスターに先導されつつ大神殿の深部へと分け入ることにな。
いや、明らかに一般人が立ち入る区画ではあるまいて。
いったい、何処へ連れて行くつもりなのじゃ?
っと言うかじゃ教会関係者たるアンジェリン殿が明らかに緊張して蒼い顔になっておるのが気になるのじゃかのぅ…
明らかに話しかけられる雰囲気ではないでのぅ、ここは大人しく着いて行くしかあるまいて。
案内されて辿り着いた場所は荘厳かつ重厚な造りの一枚板にて造られた両開扉の前であったわえ。
なんじゃえ、この無駄に威厳溢るる扉はっ!
いやの、途中から通った廊下の造りの格調高くなっておったような…
ううむぅ、明らかに重要っと言うかのぅ、高位の方が座す場のような…
扉の側に控えておった聖騎士殿達が扉に手を掛け開いて行くわえ。
内部は結構な広さでの、まるで城の謁見の間のようであったぞぃ。
いや、行ったことはないがの。
ゲームや映画なんぞで見たような感じと言えば良いのじゃろうかのぅ?
天鵞絨のような質感を持った赤い絨毯が貴賓と思われる方が座す玉座のような席まで敷かれておるわえ。
そこへと誘われるようにエスコートされるわけなのじゃがの、このように価値の高そうな品の上を歩んでも良いものなのかえ?
赤一色と思われる絨毯なのじゃがの、同系統の色にて目立たぬように細密な刺繍がの。
いや、これは絨毯に編み込まれておる?もしや絨毯を織る際に糸を替えつつ編みこんでおるのかえっ!
たしかペルシャ絨毯やトルコ絨毯なんぞが、そのような造りになっておると聞いたことがあるぞい。
日本なんぞではペルシャ絨毯が持て囃されておるのじゃがの、世界的にはトルコ絨毯の方が価値は上とされておるのじゃとか。
儂の記憶ではの、ペルシャ絨毯は1重織りじゃがの、トルコ絨毯は2重織りなんじゃとか。
その大きな違いはの、トルコ絨毯はリバーシブルにて使用可能と言うことじゃて。
冬は毛の深い方を、夏は裏返して使うのじゃがの、精密な文様は表裏共に施されておるゆえにの、どちらを使用しても見苦しくはないのじゃえ。
まぁ、お値段は、それなりに、のぅ…
トルコでは生涯物として結婚なんぞにて嫁入り道具の1つとされておるほどじゃての。
儂が歩んでおる絨毯がペルシャ方式かトルコ方式かは分らぬがのぅ…兎に角、高価であるには違いあるまいて。
そのような絨毯の上を歩んで玉座のような椅子へと座す方の前へとの。
純白のローブを纏い、宝冠を被った方の前へと。
ううむぅ、純白のローブへも同系統の糸にて精緻な刺繍が施されておるわえ。
一見目立たぬが、そのローブの価値は高いであろうの。
宝冠に到っては語るまでもあるまいて。
何が言いたいかと言うとじゃ、そのような品を身に纏える者の身分が低い筈もないと言うことで…なにゆえ、儂はの、このような方の前へと引き出されておるのじゃっ!
案内したシスターが儂の傍らより離れて壁際へと控える。
するとシスター・アンジェリンが両膝を地に着け跪く。
いや、土下座と言った方が良いのかえ?
違うのはの、足の指先立ちにての土下座とでも表現すれば…つまりの、足裏を後方に晒す感じかえ?
儂は一瞬遅れたがの、慌ててアンジェリン殿と同じようにの。
「よいよい、楽に立つが良い」そう、前より声がの。
どうやら玉座に座す方より、お声が掛かったようでのぅ。
儂は戸惑いつつ立ち上がったのじゃがな、アンジェリン殿は土下座状態のままじゃてな。
いや、周囲の方々がザワザワと…「不敬なっ!」なんと言う声がの、大丈夫なのかえっ!?
「シスター・アンジェリン。
そなたも立ち、楽にせよ」
そう再びお声がの。
「で、ですが…」そう戸惑い応える彼女への、「返答は許されておりませぬっ!」っとキツメの声が。
いや、理不尽じゃろ、どないせいと?
「控えよっ!余が許す、アンジェリン、構わぬ、余が許すゆえに立て。
そこの客人たるユウ殿が戸惑っておる。
ゆえに、そなたも立ち楽にするが良い。
これは余が決めしこと、他の者の異論は許さぬ!」
ちと強めに告げておられたせいかの、周りの者達が蒼くなりつつ黙ったのじゃがのぅ…睨むのは止めていただけぬかのぅ?




