082.爺、次の村へ、またですかいのう。
村を出て馬車での移動を再開しておるぞい。
セルフィス様との魔術実験は、どうしたのかじゃと?
ま、いろいろあったのじゃよ、いろいろとのぅ…
思わず遠い目をしてしもうたではないかえ、そんなことよりもじゃ。
馬車での読書の時間との。
お婆様は村へ逗留中は新薬研究に没頭されておられたのじゃがのぅ。
一応は人工晶石の魔素化に成功してなさるわえ。
お婆様は、これをソエリテと名付けられたようじゃわい。
ただのぅ、このソエリテだけを患部へと掛けても無意味なんじゃとか。
飲むことに害はないらしいのじゃがな、摂取しても効能もないそうな。
ただのぅ、薬効がある代物と調合して体内吸収され易うすれば魔力回復なんぞもかのうなのじゃとか。
体内へと魔素として吸収させた余剰魔力を魔那化させつつ患部へと導き欠損部を修復…
そのためには体内吸収させた魔素を患部へと導き欠損部を修復するように制御せねばなるまいてな。
そのように制御された魔素とするにはな、ソエリテへ術を仕込むしかないのじゃとか。
術は薬瓶へ陣を刻みソエリテへ浸透させれば可能と予測できておるそうな。
まだ実現はできてはおらぬのじゃがな、理論的には可能とのぅ。
簡単な制御付与実験は成功したそうじゃて、それを如何に発展させて理想通りの代物とするか。
うむ、道は、まだまだ長そうじゃてのぅ。
そんなお婆様との調薬議論なんぞも移動中の馬車にて行っておるぞい。
セルフィス様も魔術理論系の箇所では話しに加わったりな。
今迄の読書一辺倒であった道中とは、中々に趣がことなっておるわい。
途中、昼食休憩を挟みつつ、次の村へとな。
魔物や魔獣の類には出会わず、平穏無事な移動となったようでな重畳至極じゃて。
村へ着いて宿へと収まり一休み…
「では、鍛冶場へと行くぞい」
いや、ゼルフト様?今、村へと着いたばかりなのですが…えっ?来い?さいですか…
うむ、再びドナドナなのかえ、ふぅ。
ダリル様はのぅ、村へと着くと嬉々として村の外へな。
前の村では狩った獲物を高値で売り捌かれておられたでな。
なにせ、この街道は皇都へと到る主道の1つじゃてな、そのような道には当然行商人なんぞものぅ。
そのような商人連中が滞在もしておったし、行商人相手の商家も存在しておるのじゃよ。
そげな者達にとってダリル様が狩って来られた獲物は垂涎の的と言ってよかろうて。
じゃでな、言い値で売れておったわい。
儂は得た肉なんぞは氷魔庫へと入れて保存しておるぞい。
皮は下処理を行う魔導機にかけた後で、鞣し液を湛えた錬金魔導機へとのぅ。
皇都にて生産教練所通いしておる時に造った代物なのじゃがな、時間がない今は重宝しておるでな。
まぁ、あの時はあの時で時間の捻出に苦慮しておったでな、それゆえに考え出し造ったしななのじゃがのぅ。
ううむぅ、足らぬ時間をなんとかしたいものじゃてな。
そしてな、儂にとっては余剰としかならぬ代物も商人達には十分需要があってな。
儂も少々儲けさせて貰うておるわえ。
儂も儲かるなれば、狩りの方が…なんぞ思いつつもドナドナとのぅ…
まぁ、この度はゼルフト様も呆けることなんぞなく、色々と鍛冶仕事を仕込まれたわい。
で、シスター・アンジェリン?ぬしぁ儂の従者ではないのかのぅ?
鍛冶場と聞いて姿を消したのは何故じゃ?
まぁ、むさい男連中ばかりの暑い、いや熱いと言っても良い鍛冶場…
うむ、若い娘さんには、ちと酷じゃと言うものか、仕方ないのぅ。
儂も逃げ出したい気もありはするのじゃがのぅ。
新たな技を色々と教えて貰えると考えるなれば、それも良いのじゃろうな。
特に、ダリル様の刀剣類をメンテナンスする仕事は気合が入るでな。
名刀の名に相応しい業物ばかりじゃてな。
いや、元々は愛刀として携えられていた備那永虎と予備刀の巌嵐の二振りのみじゃったそうな。
皇都にて儂が造った袋を手に入れてから、皇都にて色々と刀を手に入れなすったのじゃとか。
ゼルフト様が手掛けた品も含まれておるそうな。
して、何故に儂の習作が混じっておるのじゃ?
いや…この刀が元でダリル様とゼルフト様が儂に注目し始めたと?
コヤツが原因かえ!
魔刀、初雪。
白銀の刀身は冷気を帯びて、ぬらりと光っておる。
初の人工晶石混合金属にて魔術陣を刻んだ習作…いや実験刀じゃな。
まぁ、成功作と言えるのじゃが、今の儂にとっては恥かしい限りの品じゃて。
そのような品がダリル様の所有刀に含まれておるとはのぅ…
思わず、メンテナンスしつつ鍛え直してしもうたわえ。
名付けて、魔導刀、残雪。
闘氣なんぞの氣か魔力を込めて振るえば氷刃を放つぞい。
斬りつければな、斬りつけた箇所へ氷結の追加ダメージがのぅ。
鞘に収めて抜き打ちに切り払えば、刀身から氷の刃が伸びて届かぬ筈の場所さえ切り裂くでな。
これなれば世に出しても文句のないしなと言えよう。
「やり過ぎじゃ…」っとゼルフト様が呆れられておられるのじゃがのぅ。
「ゼルフト様には言われとうないですじゃ」っと、思わずジト目でな。
ゼルフト様が手掛けた品々も大概な代物が多いでな、そんなゼルフト様だけには言われとうないわえ。




