泣いて良いかえ?
リアルにて電話経由でマンションの職員へと連絡がのぅ。
高齢者用のマンションとして管理されておるマンションじゃて、何かあれば職員が対応してくれるでな。
それはありがたいのじゃが…その職員から儂の訃報が届けられようとはのぅ。
彼女が合鍵にて部屋へと入るとじゃ、コタツにて寝ておる儂の姿がのぅ。
別に異常はないのでは?悪戯電話?などと考えながら儂の様子を伺うために近付いたそうな。
したらのぅ、息をしておる気配がな。
慌てて脈を取ったりヴァルジェのバイタルチェッカーを調べたりの。
そしたらなぁ、ご臨終じゃったと言うわけでな。
職員へは『儂の状態がおかしいのでは?』っと言った感じで調査依頼をしたそうな。
ゆえにゲーム内にて儂が生きて?おることは知られてはおらぬようでのぅ。
『トラインは環境シミュレーションのシステムを間借りしてサービス提供しているゲームなんです。
様々な制約がありますが、安価でリアルなゲームを提供できる画期的なゲームであると自負しております。
ですが実験的な側面は当然ございまして、このたびのようなことが発生し、まことに申し訳ございません。
そして実験的な側面といたしまして運営費を国とシミュレーター運営会社より補填いただいております。
ですので、皆様へは販売価格以外では無料提供できているのです。
ですが、そのような理由から環境シミュレーター運用会社と国には報告を行う義務を負っておりまして…
猪股様の件については既に報告させていただいております。
この件については、お買いいただいたゲームパッケージへ規約として記載内容ですのでご了承ねがいます』
い、いや…あの小さな字で何やら書かれておったがのぅ、目の悪い儂に読めと?
『それでですね。
このたびのようなケースは今回が初めてでございまして…
猪股様には、このままトライン内にて生活を続けていただけないかとですね。
いえ、正直申しますと、我々では猪股様へ何かを行うのは不可能な状態なのです。
悪質なプレイヤーに対してアクセスを禁じアバターを捕らえるようなことは行ったことはございます。
その際、ゲーム内のアバターからはリアル情報は残っておりませんでした。
そう、リアルとのリンクが切れた場合、アバターにはゲーム内側の意識が目覚めるのです。
つまりプレイヤーとは異なる存在となるわけですね。
今では我が社では常識となっていたのですが…この度の事象で覆されたわけです。
ただ、この度の件がどのようにして発生したのかが全く不明な状態でして。
それと申しますも、以前にトラインのプレイ中に亡くなった方がおられるのですが、その際にはアバターへ別意識が芽生えておりました。
つまり、この度のような事象は発生していないのです。
私どもといたしましては、稀有なケースとして今後も猪股様と交流させていただきたいと考えているのですが…いかがでしょうか?』
ふむ、リアルとの接触が全く途絶えるのは考え物なのじゃが…その前にのぅ。
『い、いや…のぅ…
その前に、リアルで儂が死んでしもうとったことがショックなのじゃが…
とりあえず、しばし時間を貰えぬじゃろか?』
そうかぁ~死んだかえ…いや、確かに何時死んでものぅ。
もう十分に生きたと考えれば納得…できるかぁぁぁっ!
やはり生きておりたかったようじゃわいな、うむ、達観しておったつもりでもつもりでしかなかったようでな。
かなり動揺しとる儂がおる。
まぁ、こちらでは生きておると言うことでな。
これは転生というヤツ?それともデスゲームと言う現象かえ?
いやデスゲームはゲーム内にて死んだらリアルで死ぬと言うヤツじゃったかえ?
ではライブゲームと?いや、儂は何を言っておるのじゃ?
っと、考えてみるとじゃ、トライン内でプレイヤーが死んでも死に戻りにて復活した筈じゃな。
むむむむっ?寿命や病気で果てた場合は転生システムにて転生するのじゃったかえ?
では、儂は本当の意味でトライン内にて不滅の存在と?
老いるし死ぬで不老不死ではないが…でたらめな存在になったものじゃて。
GMとのコンタクトし、その後にて考え込んでおったわけでな。
「ユウ、これ、ユウ…聞こえておらぬのか?」っと問い掛けられておったようじゃ。
どうやらセルフィス様とゼルダ婆様が儂の様子に気付いたようでのぅ。
いや、リアルのことを知られるわけには…
「いや、ちと考えことをですな」っと笑って誤魔化したわえ。
しかし…リアルで死んでしもうたとは…泣いて良いかえ?




