四話③
体育館の騒々しい声が凛とした声の一言に書き消される。マイクを持って出てきたのは部長だった。
「それでは新入生の皆様に各部活動の説明をさせていただきます。」
素直に綺麗だと涼は思った。立ち振舞いは堂々としており対応は高校生のそれではなく場数なれしてるのが見て伺えた。
「それではまず始めに運動部、次に文化部各部活5分程度の説明を行ってもらいます。人数が多く部費、大会等が多い部活は全体の説明が終わったあと個別説明会を設けますのでその時に質問等はお願いします。」
部長の技量に涼が感心しているうちに説明会は進んでいく。
演劇部の説明会に入った。涼は柊谷滴の方を見るが彼女は特に感想を持ったような表情も見せず能面のような無愛想な顔を終始続けている。
「続いて新聞部です。」
涼は柊谷滴を見るのを止めスクリーンを見た。そこには涼も作ったpowerpointの資料がデカデカと映っていた。
彼はスクリーンに映る資料を見てちょっとした感動を覚えていた。(自分が作った資料が使われるのって少し嬉しいな。)
声に出さず脳内でそんな独り言を呟く程度には感動していた涼に合わせず今まで司会だった部長が説明者になり司会のときに見せた手際の良さで説明していく。
涼はもう一度この部に入る決心を固め説明会が終わるのを静かに待っていた。
説明会が終わり個別説明会になる。当然活動の幅が広い新聞部も個別説明会の対象となっていた。新聞部のスペースに行った涼は手厚い歓迎を受けていた。
「やっぱり入ってくれると思ってたけど君が来てくれて嬉しいよ。」
部長の言葉に照れながら言葉を詰まらせながらも涼は返事をする。
「昨日の仕事も楽しかったんで今日からお願いします。」
涼の返事に満足した部長は周りを見渡し人数の揃い具合を確認して一言発した。
「じゃあそろそろ始めようか」
個別説明会が終わったあと40分の昼休憩を挟む。説明会でヘトヘトになりながらもこれからの授業のためにエネルギーをとる。
お弁当を開けるとそこには朝ごはんと打って代わり普通の高校生の料理が入っていた。
昨晩の残りの揚げ春巻き、プチトマト、ブロッコリー、ポテサラ、白米といった代わり映えしない料理がお弁当のなかに崩れないように並べられている。
涼がポテサラに箸を伸ばしポテトの甘味に顔を緩めていると柊谷滴が一人パンを食べているのが人がごった返した体育館の中で見えた。
涼はお弁当と柊谷滴を交互に見たあとお弁当を持って「良ければ一緒にどうですか?」彼女を誘うのだった。
涼は気は決して大きくない子だった。だけども高校入学というイベントに続き部活入学という人生の中でも大きなイベントの数々が彼を大胆な行動に誘った。
いきなり男に誘われた柊谷滴の方は困惑した表情になりながらも「はぁ」と間の抜けた返事を返すのだった。
「柊谷さんはパン派なの?」まずは当たり障りのない会話で彼女との距離を詰めようと涼は考えた。彼のそんな薄っぺらい考えなどお見通しだと言わんばかりの態度で柊谷滴は「はい」と短く返事をした。
会話が続かない恐怖を覚えながらも食事は進む。そのあとも涼は色々とコミュニケーションをとってみようとするがことごとく失敗する。
彼女はもしかした人と関わりたくないのかも知れない。そんなことを涼が思い始めた頃、柊谷滴からアクションがあった。
「お弁当お母さんに作って貰ってるんですか?」
初めての彼女からの問いかけだった。興奮は押さえきれない。少し早口になりながら涼は返事をする。
「違うよ、自分で作ってるんだ。」
そんな短い会話だったが少し彼女と喋れた事実が涼にはたまらなく嬉しかった。
彼女はそんな様子を見てクスッと小さく笑って「良かったら少し頂いても良いですか」と涼に問いかけた。
二人の壁が少し低くなった瞬間だった。