四話
仕事が終わった後、涼は図書室から本を二冊ほど借りてそれを読みながら家に帰宅していた。
歩きスマホならぬ歩き読書である。いけないこととは分かってはいるが歩きスマホが止められない若者と同じで理屈と自身の欲求はまた別の話なのである。
他人が見れば怒るかハラハラするかの状況を本人は何も考えずただひたすらに本を読みながらどうにか無事に家に帰ることが出来ていた。
涼は家に帰るなり本に栞を挟み自分の部屋に籠りNo.3と書かれた比較的新しい日記帳を出した。
涼は迷うことはなくスムーズにまるで宿題でも写してるかのように止まることなく文章を綴っていく。
一通り書き終えた後は再び本を読む作業に戻る。
時計の針が18を指す頃母親が帰って来た。いかにも仕事終わりで疲れています。という雰囲気を醸し出した母親を涼は毎日の習慣となっている労いの言葉をお帰りの代わりに言う。
[お疲れ様。]
[ただいま。入学式どうだった?]
疲れてはいても息子の近況を必ず確認する。高校生になった今でも親子の絆は軽薄になっておらずむしろそれは強まっていた。
[特に変わったことはなかったかな。]
涼は決して母親に悟られないようにごく平坦に言葉を繰り出した。いくら親子の絆が強くても入学式で綺麗な女の子を見つけたという話は恥ずかしくて出来たものではなかった。
[そっか。学校はどう?いくら進学校って言っても公立だからねぇ。ちょっと不安なんだ。]
母親の心配事はどうやら学校のレベルに関してのことだった。いや風紀も含まれているのかも知れない。でもどちらにしても母親を心配させないために彼は平然とした態度で[問題ないよ]言葉を繰り出すのだ。
母親との会話が終わったあと、明日のスケジュールについて確認する。明日は部活動説明と各授業の説明の二つの予定がある。部活は説明会が終わったあとに入部可能だ。
[せっかく仕事をしたのに他の部にはいるのも筋が違う気がする。]
正直涼の頭のなかには入る部活はもうひとつしかなく他の部の説明はどうでもいいという思考が漏れ出しそうだった。
でも、そんな入学したばかりの高校生の本来一番となりそうなイベントよりも涼の中には一人の女の子の方が気になっていた。
スケジュール確認を途中で放りなげパソコンを起動して検索エンジンに女の子の名前を打ち込む。柊谷滴、FacebookもTwitterも出てこない。今時の高校生にしては古風な女の子だということが伺えた。
検索エンジンのページ数が10になる頃劇団の名前が検索エンジンに上がってきた。
その劇団の名前と彼女の名前を打ち込む。ビンゴだった。そこにはまだあどけなさを残す少女のミュージカルの動画があった。