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紅き箱庭のフィロソフィア  作者: 高柳神羅
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変わったもの、変わらぬもの

 工房を照らす日差しは、今日も暖かい。

 手入れをされて綺麗に整えられた庭先で、アノンは目の前に座るネイティオの頭を弄っていた。

 幾本もの針を刺し、頭皮を捲られたネイティオの頭部からは薄桃色の肉の塊が覗いている。

 脳に直接指を触れられる感触を楽しんでいるのか、ネイティオの表情は穏やかな微笑で彩られていた。

 前を向き、双眸を閉ざしたその表情はうたた寝をしているようにも見える。

 実際、時折アノンから掛けられる言葉に対しての彼の反応は緩やかだ。

「大したことはなかったな」

「……そうっスか」

「これなら洗浄する必要はない。一応調整はするが、現状維持で問題はないな」

 捲っていた頭皮を少しずつ戻しながらアノンは言う。

 針を1本、また1本と引き抜いて、幾分もせずにネイティオの頭は元の状態へと戻された。

「もう動いていい」

「ふー」

 両腕を掲げて背筋を伸ばし、ネイティオはゆっくりとその場を立った。

「食べ過ぎた直後はぐるぐるしてたんスけどね。一時的なものだったんスかねぇ」

「それはあるだろうな」

 立ち上がったネイティオを下から見上げて、アノンは肩を竦めた。

「もう、暴食する機会はない。再発の心配は必要ないさ」

「そうスね」

 アノンの方に振り返りながら、ネイティオは掲げていた手を下ろす。

「戦争、終わったんスもんね」


 アノンが召喚した『粛清の光』で等しく壊滅的な打撃を受けたアナクトとメルディヴィス。

 僅かな生き残りを自陣に召集し、彼らは戦をやめて引き上げていった。

 工房と一旦結んでおきながら破棄された不可侵条約は、暗黙のうちに再度結び直されて。

 工房には、平穏な日常が戻ったのであった。

 そこには、あの姿も。

「アノン、ネイティオー」

 小さなワンピース姿が玄関から小走りで飛び出してきて、アノンに飛びついた。

 アノンが振り返ると、薔薇の花で覆われた小さな頭が満面の笑顔を浮かべている様子が彼の視界に飛び込んできた。

「アルティマがね、御飯食べようって言ってるよ」

「もうそんな時間でしたっけ」

 ネイティオはエルピスを抱き上げると、そのまま彼女を自らの肩に座らせた。

「アノンさん、たまには食事御一緒しましょうよ。仕事する必要もなくなったんスから」

「…………」

 アノンはゆるりと車椅子を漕いで、身体の向きを反転させた。

 玄関へと向かいながら、小声で呟くように言う。

「……そうだな」

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