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紅き箱庭のフィロソフィア  作者: 高柳神羅
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袂を分かつ

「実に、残念です」

 無言で佇むアノンに、彼女は言った。

「こんな形で袂を分かつことになるとは、予想しておりませんでした」

 祭器を片手に構えを取る彼女に、アノンは左手で車椅子の側面を探り、すらりと剣を抜く。

「でも、非があるのは貴方方なのですよ? それはお分かりですよね?」

「……どうだかな」

 ふ、とアノンは口元に小さな笑みを浮かべた。

「商売にならないことには関与しない。規則ルールとしてはそう決められていたことだ。それには違反していないと思うが?」

「戯言ですね」

 女は額に並んだ4個の瞳でアノンをぎょろりと見据えた。

「破壊の魔術を受けても平然としている少女──あれと同じ少女が此処にいることを、我々は知っているのですよ。今更しらを切るとは本当に意地が悪い」

「人聞きが悪いな」

 アノンは肩を竦めた。

「俺はただ、そいつが今此処にはいないと言っているだけだ」

「……平行線ですね」

 女の指が、竪琴を爪弾くように祭器を撫でる。

 きし、と空間が軋む音を立てて、彼女の周囲の虚空が歪んだ。

 アノンの口元から笑みが消える。

 虚空の歪みの中心から、影で形作られた腕のようなものが生えてきてアノンに向けて振り下ろされた。

 アノンは──避けない。

 車椅子から身を乗り出すような体勢を取り、左手の剣を一閃させる。続けて右手で取り出した別の剣を交差させるように繰り出して、影を完全に受け止めた。

 きりきりと噛み合う両者が震える。力は五分だ。

「──爆ぜろ」

 小さくアノンが呟く。

 ぱぁん、と鼓膜に響く破裂音を発しながら生まれた光が、影の腕を粉微塵に砕いた。

 女が目を丸くし、アノンがふっと唇を半月型に形作る。

「まさか、貴方が魔術をお使いになられるとは」

「俺をただの鍛冶職人だと思わない方がいい」

 剣を下ろし、言う。

「ネイティオに魔術の基礎を教えたのは俺だ」

「……成程」

 女が唇を舐めて、笑う。

「少しは楽しませて頂けそうですね」

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