疑惑の女
「ピュクシスの女?」
台車から荷物を降ろしながら、アルティマは半ば頓狂な声を発した。
「あたしが?」
「都市中の噂になってますよ。貴女がそうなのではないかと」
「何よそれ」
馬鹿馬鹿しい、とアルティマは肩を竦めた。
「何をどういう理屈で考えたらそんな話になるんだか」
最後の箱を台車から下ろし、台車をコンパクトに折り畳む。小脇に抱えて持ち帰れるようにするためだ。
「そもそも、あたしがアナクト担当の業者になってどれくらい経ってると思ってるの。今更すぎる話じゃないの」
「今になったから、ですよ」
きっちりとした軍服に身を包んだ壮年の男は、アルティマの全身を上から下まで丁寧に見つめて、言った。
「老いと無縁の身体をお持ちの貴女は、その可能性を見出す存在として十分に素質がおありなのですよ。疑わない道理はないでしょう」
「あたしがまっとうな人間だなんていつ誰が言ったのよ」
今や人類も随分と改造や変異が進み、何も処理を施されていない人間を探す方が遥かに難しい。
工房の人間だから何の手入れもされていない身体の持ち主だとは限らないのだと、アルティマは言いながら台車を持っていない方の手を自身の前に翳した。
手首に赤く発光した亀裂が入る。瞬時にそれは幾つもの歯車やパイプ、コードの塊と化すと、銃口を備えた機械のアームのような形状に変化した。
男の目が丸くなる。そんな彼によく見えるように変形した手首を見せ付けた。
「何だったら全身変えてあげてもいいけど?」
「……素晴らしい技術の結晶ですね」
男が目を見張る。
「貴女方の工房は改造の技術までお持ちなのですか」
「アノンは何でも作るわよ。注文が入らなきゃ動かないってだけで」
手首を元の人間のそれへと戻し、アルティマはもういいでしょと言った。
「それじゃ、あたしはこれで帰るから」
挨拶もそこそこに、アルティマは踵を返した。
殺風景な工場のような通りを歩みながら、独りごちる。
「ピュクシスの女……不老不死の女、ね」
噂程度にしか知らない女の名を舌の上に転がして、溜め息をついた。
「本当にいるかどうかも分からないものに振り回されるなんて御免だわ」




