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紅き箱庭のフィロソフィア  作者: 高柳神羅
16/42

万工房の店番

「弾を2000発。200発ずつ小分けにして梱包してもらえるか」

「はい。少々お待ち下さい」

 客に要望を出された通りに、ニコルは棚から取り出した銃弾の箱を小さな木箱に綺麗に梱包していく。

「エルもお手伝いするー」

 と。店の奥のドアからひょっこり顔を出したエルピスが、とことこと歩いてきてニコルの真似をして銃弾の箱を木箱に詰め始めた。

 この少女、年齢や挙動は歳相応なのだが頭はとにかく回る。ニコルがいちいち説明せずとも、見真似だけで銃弾の数量を的確に箱に詰めていくのだから大したものだ。

「はい、どうぞー」

 背伸びをして、カウンターに木箱を置く。

「ありがとうよ、お譲ちゃん」

 客の男は笑って、エルピスから受け取った木箱を持参した袋に詰め込んだ。

 ニコルが梱包した箱と合わせて10箱、袋に入れ終えたところで代金を入れた包みを懐から取り出し、カウンターの上に置いた。

「時に、兄ちゃん」

 ニコルが代金を受け取ると、男が問いかけてきた。

「ピュクシスの女……って知ってるかい」

「…………」

 パンドラの箱だ、というアノンの言葉を思い出し、ニコルの表情が外側からは見ても分からない程度に固まった。

 ニコル自身、ピュクシスの女について殆ど知らないことに変わりはないのだが。余計なことを言ってはならないという一種の警告概念が、つい言葉を詰まらせてしまう。

「……不老不死らしい、ということ以外は、特には」

 一般的に知られている話題のみを語り、ニコルは愛想笑いを浮かべた。アノンしか知らないことがあることを知っている、という事実は隠しておいた方が良い、と暗黙の内に飲み込んだのだった。

 そんなニコルのことを、エルピスはきょとんとした顔で見上げている。

 そうかい、と男は言って銃弾入りの袋を片手で軽々と担ぎ上げた。

「何か分かったら教えてくれよ。メルディヴィスには知られないように、こっそりな」

「……はい」

 また来るよ、と男は退店した。

 それと入れ替わるようにして、店の奥からアノンが現れた。

「……何でエルピスが此処にいるんだ」

 普段から存在している眉間の皺が割増しになっている。

 ぎっ、と車椅子を片手で動かしながら、彼は空いている方の手でエルピスに向けて手招きをした。

「おいで、エル」

「はーい」

 ととと、と小走りでアノンの傍に寄っていくエルピス。

 彼の膝の上にちょこんと人形のように乗っかると、アノンはニコルの方を見つめた。

「……何も余計なことはしてないな?」

「してませんよ」

 カウンターに設置してある年代物の骨董品のようなレジスターの引き出しを開けて男から受け取った代金を詰め込んで、ニコルは答えた。

 自身の行動を振り返り、自分が普通に商売しかしていないことを再認識して、うんと頷く。

「それならいい」

 アノンはゆっくりと反転し、エルピスを連れて店の奥へと戻っていった。

 今のはひょっとして自分のことではなく、エルピスのことを言っていたのだろうか。

 思うが、過ぎたことだしまあいいかという気分になり、ニコルは肩を竦めてカウンターの前に戻ったのだった。

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