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紅き箱庭のフィロソフィア  作者: 高柳神羅
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伝説の女

「依頼していた品だ」

 布に丁寧に包まれているそれをカウンターの上に置き、アノンは言った。

 客の女が嬉しそうにそれを受け取る。施術用の祭器を、とアノンに注文していた魔術師の女だ。

「流石、万工房。仕事が早くて助かります」

「良質の素材を提供してもらったからな」

 あの人間の成れの果てから何をどうやって使って作ったのかは皆目不明だし想像したくもないが、あれだけ量があったのだから素材には困らなかったのだろうな、とニコルは胸中で呟いた。

 そういえば、と女はアノンに尋ねた。

「ところで……ピュクシスの女、に心当たりはありませんか?」

「ないな」

 あっさりと切り返すアノン。

「何ですか? それ」

 アノンと女の視線が同時にニコルへと集中した。

「命題の答を知る存在もの──」

 答えたのは女の方だった。

「忌まわしくもアナクトも捜し求めている、不老不死の女です」

「先に邂逅した方がこの戦争いくさの勝者になると言われている存在だな」

 女の答を補足するようにアノンが後を続けた。

「そんな伝説上の存在でしかない存在ものに振り回されるなんて馬鹿げていると俺は思うがね」

「最重要事項ですよ」

 祭器を大事そうに抱え込んで、女はアノンを見た。

「もしも何か情報が入りましたら、お教え下さい」


「わざわざ調べる必要はない」

 女が帰った後。アノンはニコルに言った。

「どうせ見つからない存在だ。無駄なことに時間を費やすくらいなら、仕事のひとつでもこなしていた方が有意義だからな」

「でも、知らないとは言わないんですね」

「そうだな」

 アノンはゆっくりと車椅子の向きを反転させた。

「ピュクシスの女については、嫌と言うくらいに知っている。多分、世界中で1番よく知っている存在だろうな。俺が」

 でも、とゴーグルの下から鋭い目線をニコルへと向けた。

「だからといって何だ? 連中に教えたからといって世界が平和になるわけじゃないんだからな」

 戦争は、勝敗が決しただけでは終結しない。

 もはや末期なのだ、と言って、アノンは肩を竦めた。

「パンドラの箱なのさ。開けたら全てが終わる。知らぬ存ぜぬで通していた方が、よっぽど平和だ」

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