第十八輪 盲 目 の 王 女
第十八輪 盲 目 の 王 女
厳しい寒気を乗り越えた、クライン・ダート帝国。
雪解けを待たずして、ブレイラント宮殿には《蒼バラの紋章》が掲げられた。
帝国の至るところで管理されていた、赤いバラ達は春の開花を許されずに全て焼き払われ、白いバラ達は《戒の印》を刻まれて、蒼色へと化してゆく――――。
艶やかだった姫君は消え、光を失った若き王女が誕生したのは間もなくの話しだ。
即位式もままならず、彼女の公務は多くの国民を葬ることから始まった。帝国領土を囲むように国境付近に墓地をつくり、まるで、隣国との境界線を薄暗く隔てるようだ。
そして、若干四日という短い時間にして急減した人口を戻すように、孤児や里親、難民等を受け入れて、ブレイラント家の家訓である〝平和〟を求めた新たな国づくりが始まった。
王女は両目に黒い瞳の義眼を嵌め、漆黒で豪奢な婦人服を好んで纏い、カナリア色の長い髪を優美に流した。あまりにも綺麗に微笑む彼女の姿は年齢を忘れてしまいそうになり、的確な判断をなせる若き主導者は障害を持っているか疑ってしまうほど、有能な人物だ――、と人々は口々に伝染をしていく。
彼女が発案したという新たな《帝国の紋章》、紅い宝石が二つと、蒼バラが三輪描かれた構図。
その由来について本人はこう語り、第十七代ブレイラント王女が誕生した暁に作られた石碑にも刻まれた。
《蒼バラの紋章》
この蒼いバラは この地に眠る三人に手向ける
一輪目に 愛敬の意の為に
二輪目に 贖いの意の為に
三輪目に 戒めの意の為に
この地に眠る者 すべてに 神の祝福があらんことを
この地に生きる者 すべてに 蒼バラの夢が叶わんことを ―――
―――かくして、暗闇の中で生き続ける道を選んだ彼女を人は、盲目の王女と呼ぶ。