序 章
盲 目 の 王 女
Who is fault for breaking the all?
ギギギ………、ギギ……ギギギ………………
石壁を削る鈍い音。薄暗く凍てつく寒さの、鉄格子の奥から、その音は鳴っていた。
狭い牢屋の中には線の細い女が一人、蹲るように地に伏せている。
凍傷で色付いた手足に鎖の繋がった枷を付けて、無謀にも毛布一枚で暖をとる姿。
一際、目を引くカナリア色の髪の毛を薄汚れた地面に流していた。
窓のない牢屋は昼夜の感覚を鈍らせる。
その為、冷めた朝食が支給された後に石壁を削って日を数えることを彼女は習慣としていた。
――――今日で五本目。
彼女の名前はローゼ・F・ブレイラント。
クライン・ダート帝国、第十六代国王の一人娘であり、
代々この国を治めてきたブレイラント家の血を受け継ぐ、その後継者―――だった。
彼女には、どうしても焦がれる《夢》があった。
それは、ずっと、ずっと手に入れたかった他愛のない夢。
しかし、叶わぬと知りながらも願い続けてしまうのは愚かな人間の業というものだろうか。
なりふり構わず、考えることさえ無意味というもの。
………既に、自由を剥奪された牢屋の中なのだから。
夢を、見ることが罪だったのだろうか。
そんな些細なことさえも、許されないというのだろうか。
視界が薄れゆく中で、くだらない瞑想だけが駆けずり回る。
瞼を閉じて、終止符の見えない暗闇と見つめ合って、
彼女は口癖のように祈祷する、
───── 早く、私を殺せばいいでしょう ……………と。
かくして、ローゼの《真冬の悪夢》は幕を開ける。