-枯れない花の言い伝い-21
帝都アルーナウェント城内。
皇帝との謁見の場。
音も立てずに姿を現す一人の青年がいた。
その青年に皇帝は驚く素振りを見せる事はない。
青年は跪き顔を伏せる。
「報告します。オルカロゼ様、いくつものグループを見て来ましたが残念ながら彼女達も外れでした」
離れた位置で跪く青年はポケットから黒く渦巻くような勾玉のついた腕輪を取り出した。
「道中も探してみましたが、このトルシャの勾玉が反応する事はありませんでした」
光らない事を自分の目で確認してからポケットに仕舞い込む。
「度々来る怪しい者達の報告。そしてお前の存在とそのトルシャの証。……はぁ。数千年前にこの世界を滅ぼそうとした最悪の親子が復活してしまったという事になるのか…」
「残念ながらそうなりますね。彼が言うには最悪に立ち向かうのなら、自分を除いて証ある者をあと九人。最低でも八人は集めないといけないと言っていますから。ですが…まだ一人も見つかりそうにありませんね」
困り果てた二人の間に沈黙が流れる。
だけど、その沈黙を破るのは皇帝だった。
「トルシャの勾玉が能力にしか反応しないのは厄介ではあるな……。もっと依頼を増やすしかないのか。ミズナよ、大変だとは思うがこの世界の為だ。頑張って証を持つ者達を捜しておくれ」
「承知しました。それが存在する意味、自分に与えられた使命ですので。残りの依頼の場所へと行って参ります」
音もなく現れた青年は音もなくその場から立ち去る。
『少し他人事みたいに話していたね。数千年前も君は今と同じように動いていたのに』
音を立てずにいくつもの屋根の上を走り続けているとトルシャの勾玉を通して彼は語りかけた。
「…すみません、トト様。残念ながら今の自分には昔の記憶がありませんので」
『そうだったね。私達と違い、長い時間を眠り続けていたから仕方が無いね。それはそうと、今回は何処に向かっているんだい?』
「今回はキウェルロート大陸です。他にもありますが時間が遅いので先にそちらに向かいます」
『了解。陽がある処に影はあり。何にでも変わる名も無き影』
「我は欲する飛翔の羽。空を翔る跳躍の足」
帝都を囲む塀に足をかけて強く踏み込む。
黒き羽を身に纏い、青年は空高く飛び上がった。
キウェルロート最東端。
建物へ静かに近づき、息を潜める。
『この子達がターゲットかい?』
「はい。ここでは会話をしていると気づかれやすいです。ですので、トト様は静かにしていてください」
彼が静かになると青年は静かに走り出す。
気づかれないようにそっと、隠れながら走り続けて最上階。
トルシャの勾玉が光を放つ。
初めに一つ。
後を追うように二つ、三つ、四つ、五つ、六つと。
「やっと見つけた。証ある者達」
『ミズナ!この子達は当たりだよ』
慎重に動いて窓に手をかけて梯子に移動する。
青年は梯子に足をかけたまま頂上を左の青い眼を使って観察していた。
「そうみたいです。だけど…このままでは彼が…!…いいえ、大丈夫みたいですね」
『うん。この反応はカンウィ、レイファ、ロレンサ、メアイラ、リェンパ、ノネンダだね。一気に六人も見つかるなんて』
「一気に見つかってよかったです。残りの三人も急ぎましょう」
最上階の頂上にかけた手を離し、背中から落ちる。
そしてそのまま羽を使って青年はアミティアシナ大陸へと戻って行った。




