-はじまりの朝-5
ギルドに戻ると受付け付近でユミルさんが立っているのを見つけた。
受付けに近づくと話し終えたユミルさんは俺達の方に振り向いた。
「お、ジュン君にアオイちゃんお疲れ様。初仕事はどうだった?」
「疲れたけど楽しかったです」
「また来てくれって言われたので、また何かあれば行きたいですね」
「そっか。ファーマリーはお世話とかが大変で毎日依頼があるから困った時に行ってみるのもありかな」
初めて行って見ても分かったけど、あれだけ広い場所で農作物や生き物がたくさんいるんだからやっぱりいろいろと大変なんだろう。
「あっと、そうだ。このギルドには寮もあるんだけど二人は寮に入るのかな?必要最低限の物は揃っているからそのまま入る事はできるけど、どうする?」
(寮なんてあるんだ…凄いな、このギルドは。そりゃ、あるなら入るに越したことはないだろうけど家は近いし…とはいえ、あの廊下と階段を何度も行ったり来たりするのも正直面倒臭い。少しでも楽ができるのであればせっかくギルドに入ったんだし、今は家に囚われ続けなくても良いだろう)
「入れるなら俺は入りたいですね。あの家に何度も往復かと考えると面倒臭いんで」
「アオイちゃんはどうする?」
「私も寮に入ってみたいけど、家族と話してみない事には何とも言えないです…」
「そかそか。ジュン君は受付でカードを返してもらう時に寮の手続きも済ませちゃってね。私はこれからちょっと行く所があるから手伝えないけど殆どやってもらえるから大丈夫。じゃあ、二人共~また明日ね」
片手を挙げてユミルさんは慌てたように建物の奥へと走って行った。
(また明日という事は…明日も何かあったりするんだろうか)
「ちゃっちゃと手続きも済ませますか」
受付けに向かい依頼を終えた事の報告をする。
そして寮について訊いてみるとあっという間に寮の手続きも終わってしまった。
「ジュン・クロスフォードさんの寮への登録は終わりました。これがあなたの部屋の鍵になります。一八四号室は二つ目の建物の八階です。男子寮と女子寮は分かれていますので許可がない場合、間違っても女子寮には入らない様にお気をつけてください」
「分かりました。ありがとうございます」
寮の鍵はカードタイプのようで、重さもあまりないからギルドカードと同様に無くしそうで怖い。
(またカードケースを買いに行かないとだな)
日も大分傾いて青かった空もオレンジ色に変わり、段々藍色の空へと変わってきていた。
今日は家に帰ると言っていたアオイを家の門まで送り届けてから俺は夜のギルマンシェ通りへと向かった。
ギルマンシェにはたくさんの店が並んでいる。
道具や家具、食材に楽器や衣類やら何やらと何でも揃っていてとても便利な所だ。
探していたカードケースも直ぐに見つかり、用事も終えた事だし寮に向かう事にした。
「男子寮二つ目の建物の八階…二つ目とはここ…か?」
一旦ギルドまで戻り、そこから数えて二つ目の大きな建物の前まで来て独り立ち止まる。
考えていてもしょうがないから取り敢えず入る事にした。
建物の中は綺麗で部屋への通路は左右に分かれていた。
中央には階段と俺の家には無いエレベーターもあった。
エレベーターか階段となると階段で八階は流石に面倒臭いからエレベーターの方に乗る事にする。
家にも無いから実際に乗った事が無くて乗り方もよく分からないまま適当に八のボタンを押して閉まるボタンを押すとドアが閉まって動き出した。
落ちないかと思うと怖かったけど何事もなく八階に着いて安心した。
これはかなり楽ができて便利だ。
一八四号室は外から見れば左側。
今いるこの位置からだと右側になる。
玄関に貼られている小さな表札を見ていると隣の部屋の一八五号室はまだ誰も住んでいないようで、興味本意で左隣の表札も見てみると一八三号室は二人で住んでいるようだった。
季節が入った長い名前でどんな人なのか気になりはするけどその内会えるだろう。
昼に貰ったカードキーを玄関についている機械に軽く差し込むと読み取り音に遅れて玄関の鍵が開いた。
ドアを開けると直ぐ傍にキッチンや風呂場があり、部屋の奥は広々としていてある程度の必要な物は聞いていた通り揃っているようだ。
一つ扉を開けると一人で寝るには広すぎる寝室にセミダブルサイズのベッドが何故か二つ置もいてあった。
何故二つあるかを考えるのはやっぱり面倒臭く、今日は初めてする事ばかりで疲れていたから倒れるようにベッドに横たわり眠りについた。