-大きな捜し物-4
グレスタン鉱山。
山から流れてきている水の雫が一定のリズムで地面に跳ねている。
今でも採掘している為、歩きやすいように通路の天井に吊されたライトが足元を照らしていた。
壁を見ると小さな粒が光に反射して光っているのが分かる。
「すごーい。あっちもこっちも綺麗に光ってる!」
見た事の無い鉱山の中でアオイは元気にはしゃいでいた。
鉱山の通路を入って暫くは真っ直ぐに進んで、ある程度進んで行くと最初の分かれ道に辿り着いた。
真っ直ぐ進むか左に曲がるか。
「さて、どっちから行くか」
「…うーん。空気の流れからしては真っ直ぐだけど……」
「だが、捜してる奴は迷子の方向音痴」
「だよな。行き止まりでも行くしかないよな…」
迷子を捜す為に行き止まりの可能性が高い左の道を歩き出した。
一つ、二つと大きく開けた場所に出たけど、少年の姿は見つからない。
作業している人に尋ねても『ここでは見てない』と言われた。
「迷子の子はこっちの方には来てないんだね」
「そうみたいだね」
「最初の分かれ道まで戻るか」
歩いてきた道を引き返し、真っ直ぐの道へと向かった。
そこから右へ行ったり、左へ行ったり、時には引き返したりと蟻の巣のようになっている道を歩き続けた。
何処にも少年は見つからないまま、最後の開けた場所に出た。
「あー…。迷った…。…は…だぁ…?」
(…ん?)
声が聞こえる。
姿は見えないけど、何処からか少年くらいの声が小さく聞こえてきた。
急に立ち止まった俺の背中にぶつかるアオイ。
「痛っ…。どうしたの?」
「声が聞こえるんだ」
「声?…まさか…幽霊…?」
「…子供の声だな」
「ひぃ…っ!?」
「あはは、違うよアオちゃん。多分、あの掘り終えた砂山の陰から聞こえていると思うよ」
あちこちにある砂山の中から的確に一つを選び出す。
怯えるアオイをなだめながら警戒しつつ近づき、砂山の陰へと視線を向けた。
近づくにつれて組んでいるらしい足が見えてきた。
もう片方の足には長く伸びた黒いマフラー、その隣には大きな鎌が置いてあった。
「はぁ…どうしよーかなー…」
独り言を喋りながら石に座っているのは依頼書に書いてある通りの十七才くらいの少年だった。
「君がゼロ君かい?」
問いかけたナツキは何故かゼロを凝視していた。
「え…?あ…うん、そうだけど…お兄さん達は…?」
「俺達はアラルトルーフェの依頼で君を捜してたんだ」
「…え…?何で…?」
「帰ってこないから捜索しに来たんだよ~」
「また母さんかぁ。でも、ボクはまだ帰らないよ!」
「…何故だ?」
「ラピセクラミラーを探しに来たんだから!それを見つけるまでは帰らない」
さっきまで仔犬のように戸惑っていたかと思えば表情がコロコロと変わる。
「ラピセクラミラー?何だそれ?」
聞いた事の無い名前だった。
(ミラーと言う事は鏡か何かか…?)
「ラピセクラミラーはね、藍色に輝く宝石でできた鏡だって…この地図に書いてた」
いかにも古そうな地図をナツキは受け取り観てみると、その宝物が眠っている場所への案内が書かれていた。
「へぇ、宝の地図みたいだね。この道に行くのなら少し戻らないといけないね。罰印との間にある獣の絵は魔物って事だろうか。これを手に入れられたらちゃんと帰るかい?」
「うん!」
「ならばさっさと行くぞ」
来た道を戻りって突き当たりを二回、左へと曲がると扉のある開けた場所に着いた。
開けた場所では二人の男が扉を挟むようにして立っている。
「こんにちは。俺達、その扉を通りたいんですけど開けてもらう事はできますか?」
二人の男は睨みつけるように俺達を見ていた。
「こっから先は魔物、ヴァトラの棲処だ。自分の力に自信があるのなら通るがいいだろう。だが、命の保証はできないからな」
「俺達なら大丈夫だ。通らせてくれ」
「凄い自信だな。ならば気をつけて行けよ」
そして二人の男の手によって重たい扉が開かれた。
足を踏み入れて直ぐにライトから離れた天井に張りついているヴァトラを何匹も見つけた。
黒のシルエットに鋭く尖ったルビーのように赤く光る目。
いつ飛び出して来るか分からない暗闇に光るその目に少し恐怖を覚えた。
背後ではアオイではなくゼロの悲鳴が聞こえていた。
血に飢え、襲ってくるヴァトラを蹴散らしながら一本道を歩き続けて最初の分かれ道、真っ直ぐの方でキラキラと光るものが見えていたが、地図を頼りに曲がって歩く。