-大きな捜し物-2
地下部屋、あれから来た事は無かった。
先に下りていたハルトが受付けを終えて部屋を一つ借りていた。
今回は試合方式ではない為、ブザーの設定はしていない。
備えつけの木刀を持ち、部屋の真ん中で俺とハルトは向かい合って立った。
「ジュン~。私達は気にせず頑張ってね!」
隅っこの方で畳二つ分くらいのスペースにアオイは結界を張り、俺達が集中できるように気を使ってくれていた。
「オレ達も始めるぞ」
合図と共にハルトが俺に向かって走って来る。
今日の修行ではハルトは銃を使わずに俺と同じで木刀を使い身体を鍛えるみたいだった。
銃を扱うにしても魔力消費で体力を使うらしい。
ハルトと同じように突っ走って素早く何度も木刀を振るうけど簡単に防がれてしまい、押しつけ合う形になった。
「まだまだだ」
「…木刀の方が強いじゃん」
「昔は剣を使っていたから…な!」
弾き返した勢いのまま俺の懐までハルトの木刀が伸びて来るのを急いでもう片方の手に持つ木刀で矛先を逸らしながら避けた。
一度距離を取り、深呼吸してから体勢を立て直して床を蹴り、再びハルトに向けて木刀を振るう。
それも簡単に止められてしまうけど、そのままもう片方の木刀で隙ができた所に叩き込もうと素早く振るった。
それに気づいたハルトは翼を羽ばたかせて一瞬にしてその場所から飛んで消えてしまった。
ハルトが急にいなくなった為に思いっきりバランスを崩した。
立て直した時に首元に何かあるのに気がつき横を見ると、ハルトが木刀を首元に当てて立っていた。
「…翼を使うとか…参った」
「実戦、何が起こるか分からないって事だ」
「…そうだな」
「休む暇は無い。次…行くぞ!」
「来い!」
剣捌きが見えないくらいの速さで攻守を繰り返し、何時間とハルトとの修行は続いた。
隅っこの結界の中ではナツキがアオイに何かを教えているようで、二人の手元が明るく光っていた。
気づいたら時計の針はお昼前を指していた。
「今日はこれぐらいで良いだろ」
「はぁ…はぁ…。疲れたぁ…。あれだけ動いてたのに…息切れしてないって…凄いな」
「お前とは鍛え方が違うからな」
「あはは…」
汗だくになり、服が身体に引っついたりして気持ち悪くなって服の前を思いっきり開けるとハルトも同様に開けていた。
身体から汗の臭いも漂ってるから今直ぐにでも水を浴びたい気分だ。
「汗流したいな…」
「二人共、お疲れさま。汗を流すんだったら、ここの通路奥にシャワールームがあるはずだよ」
離れて何かをしていた二人は修行を終えた俺達の所まで歩いて来ていた。
「お、なら浴びに行くか」
シャワールームがあると分かって、汗で濡れた上着と服を手に持って通路奥にある扉を開けると、中は一つの大きな待合室になっていた。
左右に赤と青ののれんが扉の前にかかっていて、男用と立て札がついてる右側の青いのれんの扉に入った。
濡れた服を直ぐに終わる洗濯乾燥機に放り込んでいると、どうやって脱いだのか分からないハルトも同じ所に放り込んでいた。
脱衣場で見て分かるくらいハルトと俺の鍛え方の違いは明らかだった。
(無駄にフェロモン漂わせてるだけはあるな…。見えないところの筋肉凄いや)
シャワールームは横に一人分のスペースで区切られていただけで、俺達は一つ場所を空けてシャワーを浴びていた。
「なぁ、ハルト~。何で剣を止めたんだ?剣の方が強いのに」
「…………ナツキの為だ」
無視されるだろうなと思ってたから、遅いながらも予想してなかった返事が返ってきて驚いた。
「ナツキに何かあったのか?」
もう一度訊くと、それから何も答えようとはせずにハルトは先に脱衣場に戻ってしまった。
乾いた服に着替えて待合室に出ると待ってた二人は美味そうにアイスを食べていた。
「あ、二人共出て来た」
「やっと揃ったしお昼、何か食べに行こうか」
そう言われると腹が減っている事に気づいて時計を見るとお昼から大分過ぎていた。
「何か上で食べるか」
休憩場に向かう為、アイスを食べ終わるのを待ってから地下部屋を後にした。