-大きな捜し物-1
朝、陽の光が部屋中に差し込み、照らされた時計に視線を向けると約束の時間が一刻と迫ってきていた。
上着を大きく回すよう背中に持っていき、袖に腕を通す。
アオイを迎えに行かないといけないって事もあって集合場所はギルドになっていた。
準備を終えてからお馴染みの女子寮玄関前でアオイを待っていると、寮から出て来る人達の視線を何度も感じながらも目を合わさないように俯いていた。
いつもここで待っているからか、それとも色々と目立つハルト達といるからかは分からないが、すれ違う若い女の人達が俺を見ては顔を赤らめさせたり、目が合えば黄色い悲鳴を上げたりと、何故か盛り上がったりしている。
(うーん……。最近、こんな事が増えた気がする…)
護人の一人と知られているから馬鹿が血迷わない限りアオイが危害を加えられるって事は無いだろうが、あんまり良い気分はしない。
「お待たせー!…わっ」
こけそうになるくらい慌てて走ってくるアオイと合流してギルドへと向かった。
代わり映えのしないいつものギルドの光景。
休憩場に視線を向けると漆黒の翼の目立つ二人が座っているのを見つけた。
ハルト達以外にもウィグナスの住人は多くはないけど何人かはいたりする。
だけどあの二人は独特の雰囲気を持っているからか直ぐに分かる。
女子寮の時と同様に周りの視線を集めているから見つけやすいという理由もあるけれど。
足を組みながら待つハルトのいるテーブルに近づくと甘い蜂蜜の匂いが漂っていた。
「悪い、待たせた」
「おはよう、二人共」
「……やっと来たか。…食うか?」
「おはよ~。うん、食べる!」
甘い匂いのする理由はハルトが持っていたロスキートーワのワッフルだった。
二人で見るからにして凄く甘そうなベリーソースと砂糖と生クリームがたっぷりかかったワッフルを食べていた。
俺は無言のままナツキの隣に座る。
「なぁ、ナツキさんよ。前も見てて思ったけど、ハルトってもしかして甘党なのか?」
「そうだね。ハルは甘いモノには目がないからね。お菓子が無い時は自分で作っていたり、使用人に期間限定のモノを買いに行かせていたり。見た目とのギャップが面白いよね」
「へぇ…。ハルトって料理できるんだ」
「ははっ、そうは見えないでしょ?でも、甘いモノを食べている時だけは子供の頃に見せていた表情をするんだ。その時みたいに優しい表情をさ」
「…子供の頃に何かあったのか?」
「…僕がウィグナスの王子だって言うのは前に知ったよね。僕達は小さい頃からずっと一緒にいたんだ。だけど、十歳頃からかな?毎日の勉強量が倍くらいに増えてから自由にできる時間が無くて、ハルはその間ずっとぼろぼろになるまで厳しい特訓を受けていたんだ。会える時間は会っていたけど、だんだんハルの感情が欠けていくのも分かっていた。お菓子を食べている時だけいつものハルに戻ってくれるって知った時は会う度にお菓子を用意して食べていたかな。…まぁ、それが原因でハルが甘党に目覚めてしまったのかもしれないけど」
ハルトの顔を見ながら笑うナツキ。
「家出して、ジュン達と出会ってからハル…少し変わった気もするんだ。僕以外の誰とも関わろうとはしなかったあのハルが…。まだ素直にはなれていないけど、ウィグナスにいた時より楽しそうにしている」
「…別に楽しそうになんてしてないぞ」
アオイもハルトもワッフルを食べ終えたのか、俺達の会話に耳を傾けていたらしい。
「いいや、楽しそうだ」
「…フン。………変わったのはお前だ、ナツキ」
笑っているナツキを置いて、ハルトは小さく呟きながら先に地下への階段を下りて行ってしまった。
「やっぱり素直じゃないね」
「…だな。アオイも地下に行くぞ」
「うん。でも、地下で何するの?」
「ちょっとハルとジュンの腕合わせかな?待っている間、僕達も何かやろうか?」
「うん!」
俺達も奥にある地下へと続く階段に向かって歩き出した。