-空からの訪問者-6
穏やかに吹く風が髪や服をなびかせ、肌をさする。
魔物とは出会う事も無くのんびりと道を歩いていた。
何も起きる事も無いだろうと思いながら空を見上げる。
太陽の光が眩しかったのと同時に何か黒いモノ数枚が舞い落ちてきたのが分かった。
気になって舞い落ちる黒いモノに手を伸ばす。
「…羽根?」
手に取ったモノは羽根だった。
それも漆黒。
「その羽根って…」
「ん?知ってるのか?」
「うん。でも…いや、…まさか」
口ごもるナツキの表情は有り得ないと言いたそうだった。
ハルトの眉間にも俺を嫌がっていた時とは比べものにならないくらい皺が寄っている。
突然、空気が大きく動いた。
何度も波打つように、それは近づいてきたのか背中への風当たりが強くなり、俺達は慌てて振り返った。
赤い髪に漆黒の翼を羽ばたかせる青年が睨むように上空から降りて来た。
その青年の面影はどことなくハルトに似ている。
ナツキは驚いたままだった。
そしてハルトはナツキを庇うように前に立つ。
「やっぱりここだったんな。ハル……それにナツキも」
「…アキハ」
「何でアキがここにいる!」
俺達は一度も聞いた事が無いハルトの叫び声に驚いた。
「…ハルちゃん?」
「…なぁ、ハルト。誰なんだ?悪い奴なのか?」
何も答えない。
ただ重い空気が流れている。
「何でって言われてもな~。お前らなら答えんくても分かるだろ!」
発言と共に両ポケットから折り畳み式のトンファーを取り出し、勢いをつけながらハルトの目の前まで飛んで来る。
ハルトは当たる直前に銃を出して防いでいた。
「へぇ。手品みたいに面白い事すんのな。でも、お前が俺に勝てるとでも?」
「……くそっ」
相手の押さえつける力が強すぎて受け止めている手が震えている。
「お前がこんなんで大事な王子を護れると思ってんのか!」
(…王子?…ナツキが?)
「護れる?…護るさ。その為にオレはここにいる!命懸けてでも護るって。何があってもずっと……ナツキの傍にいるって決めてるんだよ!」
押さえつけられているトンファーを撥ね退け、すかさずに蹴りを入れる。
「…ふっ…そうか。…それを聞けただけで今は充分だわ」
蹴りを軽々と避け、手に持っていたトンファーを仕舞い始めた。
何が何だか分からないまま終わってしまって、突っ立っているだけの俺達に向かってアキハと呼ばれる人は笑顔を向けていた。
「三人共、色々と迷惑かけてごめんな。俺はアキハ・ラディアノ・シア・フィアード。多分、見て分かると思うけどハルトの兄です」
「…どうも」
「結局、アキは何しに来たんだ?俺達を連れ戻しに来たんじゃないのか?」
睨むように兄を見続けるその目に困ったように苦笑いをしていた。
「まぁ、様子見…かな。ウィグナスではナツキがいなくなって騒ぎになってるし、少ない人数の騎士でお前達を捜してる。だけど、俺には連れ戻せって命令はまだ下ってないんだわ」
「でも、 どうしてアキハはここが分かったの?」
「それは簡単な事だな。いくら街や村で足跡を残さんようにしても長い間、身を隠せる場所でお前が考えつくとこと言えばウィグナスの騎士が入れん場所、アルーナウェントくらいしかないからな」
「…流石アキハだね」
「今回はフユネも心配してるから様子見に来たけど、次に会う時はちゃんとウィグナスに戻ってもらうからな。…んじゃ、俺は一旦戻るわ」
そう言い残し漆黒の翼を大きく羽ばたかせて空高くまで飛んで行ってしまった。
残された俺達は黙ってナツキの方を見る。
「ウィグナスで王子が行方不明になってるって本当かどうかも分からない噂は聞いていたけど、まさかその王子がナツキ君だったなんてね。やっぱり様で呼んだ方が良いのかな?」
「今までのままで良いですよ。今ここにいるのはギルドにいるただのナツキですから。それにどんな立場の人でも関係無いのでしょう?」
「そうだね。変な事を言い出してごめん」
それから他愛もない話をしながら歩いていると、ハルトに小さめの声で呼び止められてアオイ達とは少し離れて歩く。
「どうした?」
「レイウォークに向かう時に言っていただろう。オレに修行してくれないかと。相手をしてやっても良い。……別にアキに勝てなかったからじゃないぞ?ナツキを護る為だ」
「ははっ。ありがとな、助かる」
「やるからには朝からみっちりやる。覚悟しとけよ」
「了解」
ぶっきらぼうに言いながらも最終的には照れていて、素直じゃないハルトが面白い。
俺達が後ろで話している事に気づき、ナツキは何か嬉しそうに微笑んでいた。