-空からの訪問者-4
レイウォークに行くついでに受けた依頼の内容はさっきも言っていた通りの配達。
ギルマンシェにある花屋、プトラスロートから白とピンクと紫で彩られたアートフラワーを受け取った。
これをレイウォークの村長に届ける事になる。
「そうだ。ここの近くにロスキートーワっていう店があって、ドーナツやワッフルが美味いらしいんだがちょっと行ってみるか?」
「うん!行く行く!」
寄り道でロスキートーワへ向かう事に決めた。
プトラスロートから奥へ少し歩いて行くと蜂蜜の甘い匂いが風に乗って漂ってきた。
「うーん!蜂蜜の良い匂い~」
漂う甘い匂いに待ちきれないようでそわそわし始めていた。
もう少し歩くとショーケースに並ぶたくさんのドーナツやワッフルがあった。
「ん?あの店の前にいるのって…」
店の前にはルコルトの森で見慣れた赤髪と緑髪に漆黒の翼を持つ二人が何やら可愛らしい箱を持って立っているのを見つけた。
「おーい、ナツキ、ハルト!こんな所で会うなんて偶然だな」
名前を呼ばれた二人は俺達の方へ振り返る。
「やあ、ジュンにアオちゃん。おはよう」
振り返った二人が手に持っていたのはこの店のドーナツだった。
ハルトは俺の顔を見るなり、何でこんな所で会ってしまったのかと言うような感じにかなり嫌そうな顔をしている。
「ドーナツ買ったんだ?それ美味い?」
「ん?これ結構いけるよ。でも、こっちのベリーソースもお勧めかな」
ショーケースを見ると店側もお勧めしているらしくベリーソースは一番人気と書いてあった。
その横を見るとチョコ、チェリー、ピーチといろんな種類のソースも置いてあった。
ハルトを見るとホイップを挟みチョコソースをかけて大量の粉砂糖をまぶした見るからに甘そうなドーナツを食べている。
「うーん、どうするか。…なぁ、ハルト。そっちはどうだ?」
試しに投げかけてみたけれど、やっぱり俺の問いかけには答えようとはしなかった。
ハルトがお構いなしに無言でドーナツを食べ続けると隣のナツキは俯き笑いを堪えているのか口に手を当て両肩が小刻みに震えていた。
「ねぇ、ハルちゃん。美味しい?」
「……美味いよ。あんたも食うか?」
俺とは違ってアオイの問いかけにはちゃんと答えていた。
そして箱の内側に隠していた小さな紙袋から食べていたのと同じドーナツをアオイに差し出していた。
差し出されたのを受け取り、幸せそうな顔をしながら口に頬張っていた。
「本当だ!美味しい」
美味しそうに食べるアオイを見て嬉しかったのか、ハルトが珍しく微笑んでいた。
「…で、俺の分は?」
「お前は自分で買え」
「いや…まぁ…自分で買うつもりしてたけど、何?この差!酷いと思わないか…?」
ナツキに助けを求めてみたが、笑いを堪えるのがもう限界なのか声に出して笑っていた。
「あはははは!…ごめんごめん。二人を見ていると面白くて…はははっ」
笑いが止まらないらしく、ずっと笑い続けている。
「はぁ、もう良いよ……。お姉さーん、ベリードーナツ二つー!」
小袋に詰めてもらって受け取り、自分用に一つ取ってから残りはアオイに差し出した。
「連れてきたのは俺だし…これも食うか?」
「うん!ありがとね、ジュン」
小袋を受け取り、袋から取り出して二つ目もその場で食べ始める。
「ははっ、何か餌付けされているみたいだね」
「ふふふ。そうかもしれない。…ベリーも美味しい~」
幸せそうに頬張り続けていた。
「そう言えばナツキ達はこの後、何処かへ行くのか?」
「うん、行くよ。レイウォークの村長さんの所にこのドーナツとワッフルを届けるんだ。生ものだから急がないとだけど」
『この』とはハルトが持っている可愛らしい箱の事。
「へえ、これまた偶然だな!俺達もこのアートフラワーを村長の所に持って行くんだよ。ナツキ達も良かったら一緒に行かないか?」
手に持つ花の入った籠を軽く掲げると一人、不機嫌な顔をしている。
「お前だけで行け」
ずっと俺を無視していたハルトだったが、否定する時だけは何故か早かった。
「ははっ。そんな意地悪を言ったら駄目だよ。目的地が同じなら一緒に行けば良いじゃないか」
「…分かったよ」
「よろしい」
「じゃあ、行こっか!」
「そうだな」
ハルトに睨まれながらも四人でレイウォークへ向かう事にした。