-空からの訪問者-1
空には雲より高く浮かんでいる島が二つある。
一つは背中に大きな漆黒の翼を持つ一族が住んでいる王国、ウィグナス。
もう一つは風で塞がれた謎多き浮き島、ラウィント。
現在、ウィグナス城内では王子が行方不明になり大騒ぎになっていた。
「あの街にはいなかったのか!」
「こっちの街にもいません!」
「お前達、もっと隅々から捜せ!絶対に見つけるんだ!」
「ああ…。行方不明になられてもう、何日になる…。あの御方は一体何処へ行かれたのか…」
捜索を任された騎士とその王子の使用人が城内を駆け回り、隊長の叫び声が城内に響く。
使用人達は頭を抱えながら同じ所を行ったり来たりしている様子を二階の渡り廊下から見下ろす二つの人影があった。
「あいつら、まだ見つかってないんだな」
「そうみたいです。お兄様達は何処に行かれたのでしょうか…」
「さぁな。でも、心配しなくても大丈夫だろう。あいつがついているんだ。そう最悪な事にはならんよ」
青年は少女の頭をポンポンと軽く叩く。
それでも少女の顔から不安な表情は消えなかった。
「ずっと俺達には自由ってモノが無かったからなぁ。特にあいつらが逃げ出したくなるんは分かる。あいつらはこの国の王子とその王子を命懸けで護る付き人だ。俺達よりずっと辛い思いをしてきたはずだ。だけど、自ら黙って消えるんは良くないよな…」
そう言い放ち、青年は少女に背を向け歩き出す。
「…アキちゃん?何処にお行かれですか?」
「ちょっと俺も捜しに行ってくるわ。見に行くだけだからお父様や騎士達には内緒にしといてくれよ?」
軽く振り返り、口元に人差し指を当て軽く微笑んでその場を去って行った。
「お気を付けてくださいね…」
見えなくなった青年の背中に向かって心配そうに少女は独り呟いていた。
青年は城の外へと足を向かわせる。
城の中では騒がしくなっているが、城の外は中と違って穏やかなまま。
騒ぎや混乱が大きくなるような大事にはさせないようにと国王が決めた為、捜索する騎士の数はほんの少数だ。
買い物をする者、子を連れて出歩く者、国の為に働く者、その中の誰も王子がいなくなった事を知らない。
何も知らない国民達の傍を作り笑顔で挨拶しながら通り抜ける。
城周りでは騎士達が何人も見張っている為、買い物に行く振りをして離れた所にある大聖堂の裏側へと青年は向かっていた。
表側とは違い、建物の裏側はあまり人が通ったりしない。
飛べない者が落ちないようにと作られた高い柵に飛び上がり片足をかける。
「…さてと。賢いあいつらが行くとなると、この国の騎士が自由に出入りできん場所、あそこしかないだろうなぁ」
身体中の力を抜き、前に倒れるように身体を傾け、柵を蹴るように飛び降りる。
そして翼を広げ、速度を上げながら地上へと落ちて行った。