-二つの出会い-6
「ミザール、アルコル、フェクダ、ドゥーベ、そんな奴らは放って置け。行くぞ」
突然のその一言で面白くなさそうに構えていた武器を直し始める。
俺を押さえつける力も無くなり、やっと自由になった。
「…分かりました」
「ちぇー、つまんないの」
「ですけど、アルカイド様ぁ!」
「放って置けと言ったんだ、ドゥーベ。我に逆らうか?」
「…すみません」
金髪の男のお陰で俺達は命拾いをする。
(リーダーらしきあいつが動かなければ、俺達は死んでいただろうな…)
一人一人金髪の男に続いて召喚された暗闇の扉へと消えて行った。
だけどアルコルと呼ばれた少女だけは扉の前で立ち止まって手に持っていた熊のぬいぐるみにキスをして話すように顔の前まで持ち上げていた。
「熊ちゃん、暴れられなかったお兄さまの代わりに暴れてらっしゃい」
再び抱きしめて熊のぬいぐるみに何かを入れると身体全体が段々と大きくなり、暴れるように動き出した。
「じゃ~ね~」
手を振りながら立ち去る少女が入ったのと同時に暗闇の扉も消えて無くなってしまった。
一匹残された凶暴な熊と目が合うと耳が痛くなるくらいの大声で吠え始めた。
「助かったと思ったら次は熊か…」
「だが油断はするなよ。死にたく無ければな」
「お前もな!」
左右に散りながら走り、熊に近づく。
接近される事を拒むように熊は勢いよく足を振りかざした。
瞬時に後ろへ避け、振り下ろされる前に低姿勢のまま体へ斬り込みを入れる。
爪を立て反撃しようとしてくる熊の右腕を剣で弾き、残ったもう一つの剣を振りかざし、右腕を斬り落とした。
隙ができている俺の背中に向かって左腕で反撃しようと手を挙げるが、反対に散っていたハルトに銃で左腕を消し飛ばされていた。
腕が無くなった熊は残った足で地面を踏みつけ、地震の如く地面を揺らす。
立つ事も一苦労で、揺れが治まるまで俺は動けないでいた。
揺れから逃げようとハルトが翼を羽ばたかせた瞬間、飛ぶ事を阻止する熊は走ってハルトを蹴り飛ばしていた。
両手に持つ二丁の銃で防いでいたが後ろの木まで吹き飛ばされ、背中を強く打っていた。
「ハルト!」
「…気にするな。お前もよそ見をするな!後ろに気づけ!」
急いで後ろを見ると、さっき斬り落としたはずの右腕が爪を立てながら俺に向かって飛んで来ていた。
慌てて体勢を取り直そうとするが地面が揺れていて間に合わない。
「風よ、奴を斬り裂け。跡形も残すな!」
叫び声と共に背中に触れかけた熊の右腕が一瞬で跡形もなく消え去った。
声が聞こえた方に振り向くと、そこにはナツキとアオイが立っていた。
「ナツキ!」
「二人共、手こずっているようだね。…大丈夫?ハル」
「逃げたんじゃなかったのか?それにあんたも…」
「言っただろ。ハルを置いては行かないって。隙ができたら飛び出そうかと思って離れた所で隠れていたけど、その前に奴らは消えてしまったからね。良いタイミングで戻ってこられたみたいだ」
ナツキは鋭い目つきから頬笑みに変わる。
傍にいたアオイはハルトの所へと駆け寄り、傷を癒していた。
「ハルちゃん大丈夫?」
「…ん?ああ、すまない」
「…へぇ、治癒能力か。凄いな」
見た事が無いらしく、アオイの治癒能力を関心するように見ていた。
ハルトの怪我も回復し、再び体勢を立て直す。
「んじゃ、最後と行きますか!」
俺は顔部分を斬り込み、ハルトとナツキは両足を消し飛ばす。
身体は斬り込めたが何かに覆われているのか、顔だけは剣が弾かれてしまい斬る事ができなかった。
「なんだ?」
「これは…結界か?」
最後に銃で胴体を消し飛ばし熊は顔だけになった。
顔だけになっても熊は抵抗し始め、意地でも噛みつこうと跳んで来る。
「ちょっと大人しくしていてもらうよ。風よ、奴を縛って黙らせろ」
風で地面に縛りつけ、こいつをどうするかを考える。
「結界って事なら…私に任せて。結界を張る事ができるなら壊す事もできるはずだから」
その言葉にやはりナツキは興味があるらしくじっと見ていた。
牙をむき出しに暴れる熊に怯えながらも額に手を置き、力を使い始める。
暫くすると結界が壊れる音が聞こえ、暴れていた熊は静かになってしまった。
「あ…」
アオイの呟きの後に熊はぬいぐるみに戻り、何かの欠片が足元に転がり落ちた。
それを手に取り持ち上げる。
するとアオイの何かに反応したのか、欠片は形を変えて服屋で貰った細い腕輪にチャームとしてくっついてしまった。
「それは星の欠片だね。どうして奴らが持っているのかも不思議だけど、アオちゃんの力に反応して星の欠片の形が変わってしまったのも面白い」
「形が変わったのって星に関係する力を使うからなのか?」
「多分ね。普通、あんな風に欠片が変化する事は無いからね。それに結界を張ったり壊したり、治癒する能力があるのも強力な星の力が特徴だからその力に惹かれたんだろう。そう言えばシャルムーンって言っていたよね?ホシリアの力を使い、それを護る特殊な家系の」
アオイは小さく頷く。
「……まぁ、何にしても一旦ギルドに戻った方が良いかもな」
「ん?…ああ、そうだね。怪しい奴らの行方も分からないし、報告をしに行かないとだね」
行きと違って帰りは何度もアラネアと遭遇してしまい、最初はアオイの叫び声に二人は驚いていたけど、出くわす度に直ぐに倒してアオイが再び叫び出さないように気をつけていた。
遠くで見えたアラネアはハルトとナツキがどうにかしてくれた。
別の意味でくたくたになりながらも無事にアルーナウェントに戻ってくる事ができた。
下手したらもう二度と戻ってこられなかっただろうな。
四人でアラルトルーフェに戻り、ギルドの長に報告をしに行った。
奥の部屋へ行って怪しい奴らに会った事、奴らは何かを探しているという事、星の欠片を使う事の全てを話した。
ただ、今日と同じ事がまた起こるとは限らない。
用心はしていくが、また出会う事になれば今度は命懸けで戦う事になるかもしれない。
気をつけなければいけないけど今のままじゃ勝てる気はしない。
だけど聞いてしまった以上は特に奴らが探しているものが何かを知る必要があると考えている。
ホートとは何か。
役目とは何か。
この世界に最悪を招く奴らなのかどうか。
(…もっと強くなりたい。ちゃんと護り抜けるくらいの強さがほしい)