槍と少女
「ここが次の町か」
町の入口を示す看板の前で、一人の少女が呟いた。
彼女の背中には一本のパチルザンと呼ばれる槍が背負われていて、自分の身長より大きなそれを子どもが迷子にならないように背中に風船を縛り付けておくような感じに見えてしまう。
そんな槍を背負っているためか、町中では町民の視線を集めてしまい、旅人が来たというのはすぐに町中に知れ渡っていた。
『大きな槍を持った少女がやってきた』と。
少女は早速宿へとやってくると、今日の寝床となる部屋を借りた。
値段はそこそこ安く、朝食が付いてくる宿だったので、即決で借りた。
部屋に入って最初にしたことは、持っていた服を全部脱ぎ、シャワーを浴びた。
身体を綺麗にし、再び着ていた服を身に付け、槍を背負って町中へと戻る。
どこかしらで奇異の視線を向けられていたが、少女自身は気にすることなく、食事処へと入り、この町の名産である豚肉を使った料理をたらふく食べた。まさにフードファイトの領域。
「ご馳走になった」
「ありがしゃっしゃー」
腹を満たした少女は、胸よりも膨らんだその腹をポンポンと叩き、ゲップを一つこらえた。
背中に背負った槍のせいで、未だに注目を集め続けていたが、さっきほどではなく、さっきまでの八割ほどまで減っていた。それでも八割。
ぞろぞろと子ども中心の集団が少女の後ろを付いてきてはいたが、少女は相変わらず気にする様子はなかった。
そして次に少女がやってきたのは、武器屋。
ここの武器屋には、防具から旅で使えるアイテムまで、なんでも揃っていた。なんでもござれなお店だった。
「いらっしゃい。なんにしましょ」
恰幅の良いおっちゃんが少女に問うと、少女は背中に背負っていた槍を下ろし、おっちゃんに差し出した。
「これを買い取ってくれ」
「え? これ?」
「ん」
端的に情報だけ伝えると、この少女がこのトレードマークにも近い槍を背負っていると聞いていたおっちゃんが、驚いて目を丸くした。
「売るのかい?」
「ん」
「本当に売るのかい? 返品はきかないよ?」
「売る」
「なんでまた、こんな立派な槍を……」
おっちゃんは不思議そうに聞いた。
確かにその槍は立派だ。刃の部分は綺麗に磨がれていて切れ味も良好。柄の部分の先端にまで綺麗に紋様が刻み込まれていて、それだけでも高価な物だということがわかった。
少女は首をポキポキと鳴らして答えた。
「その槍は拾った」
「拾った?」
「ん。前の町を出てからしばらくして会った山賊を懲らしめたとき、その一人が落として行ったんだ」
「懲らしめたって……お嬢ちゃん一人でかい?」
「ん。でも私には重くて使えない。それなら使えるお金に変えて欲しい。だから売る」
非常に納得のいく説明だった。
すべてを理解したおっちゃんは、その槍を相場に見合う高価格で買取り、槍と引き換えにお金を少女に渡した。
お金を受け取った少女は、そのお金で安くはない程度の短剣を一つ買い、武器屋をあとにした。
店を出た少女を見た町民は、その背中に背負っていた槍がなくなっているのに気づき、それはそれで大変だと、町中に広め回った。
少女は、やっぱり気にすることもなく、宿屋へ帰ると、お金の一部を使って、部屋にマッサージを頼んだのだった。
次の日、少女が町を出たあと発行された新聞には、『強者少女、槍を売って飯を喰らう』という見出しが一面に載り、食事処で一人フードファイトを繰り広げている少女の姿が映っていた。
右下には武器屋のインタビューが載っていたが、とても小さいものだったとか。
そんな少女の旅は、今日も続いている。
おしまい。
ありそうでなかった話。
これがリアル。