紅き深淵の魔女

彼女が約束を想い出すまで

Prologue.

　彼女は紅き魔女。

　世界を揺るがす絶大な力を持つ魔女の身でありながら、揺るぎ無い忠誠に剣を捧げ、古き血筋の王に仕える稀有なる者。

　『寂しさ』より生まれ出でた彼女の記憶は、決して底の窺うことのできない深く暗い深淵の中で眠り……未だ目覚める気配がない。

　彼女は知らない――――覚えていない。

　自分の手を引いてくれた、狂おしい程に愛おしいぬくもりを。

　縋り付いていた、幼き日の大切な約束を。

　……忘れては、ならなかったのに。