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オバール人達の地球  作者: 赤屋根
第三章 破壊
7/8


スナメリ達の住まうキャンプは、近隣の別のキャンプの住民達から、蛍のキャンプと呼ばれていた。

傍を流れる河の水力による発電量が多く、夜になると多くのランプが街を照らすからだ。

空が白みはじめ、住民達が寝静まった後もついていたいくつかのランプの明かりが消える。


更に日が高く上り、今日もいつもと変わらぬ茶色い雲に覆われた空が顔を出した頃、活動しだした住人たちの立てる音や声で、スナメリは眼を覚ました。

薄暗い部屋で、ゆっくりと身を起こす。

夜の冷え込みのせいで、体中がかちかちだ。

それに下になっていた肩や腰が痛む。

毎晩これではさすがにきついな、と思った。


窓枠にはめ込まれた木製の扉をあけ放つと、部屋の中が急に明るくなる。

風はねっとりとしめった空気を部屋の中に運んできた。


部屋が明るくなり、淀んだ空気が新鮮なものに変わっても、ベッドの上の少女は目を覚ます気配を見せない。

「フロン」

少し躊躇ってから声をかける。

ん、という返事ともとれる声をフロンは出し、毛布の下で体を僅かに動かした後、薄く眼を開けた。

スナメリを認識すると、ゆっくりと微笑み、そして先ほどよりしっかりと毛布を体に巻きつけ眠ってしまった。


フロンを起こすのを諦めたスナメリは、棚から昨日の夜に配給された朝食用のパンを手に取る。

椅子の背もたれに肘をついて、ゆっくりとそれを食べる。

食べながら、どうやったらあの石頭のリーダーがフロンをこのキャンプに住むことを許可してくれるか、考えた。


三か月前にもこのキャンプにたどり着いた放浪者がいたが、人に移る病を持っているという理由でリーダーは無慈悲にも彼を追い返した。


「スナメリ!」

その時突然、窓の外の表路地から彼の名を大声で呼ぶ声が聞こえた。

スナメリは小さな窓から外へと顔を突き出す。

子供の時から親しい友人のコーラが、慌てた様子でそこに立っていた。

「なんだよ、朝っぱらから大声出すな」

「リーダーがお前の事を探してるらしいよ!」

無駄な身振り手振りを交えながら、コーラは重要な事を知らせてくる。

「すぐ行く」

大慌てで外に出る準備をすます。

ドア大きな音をたてながら乱暴に開けると、一歩踏み出すたびに軋む廊下を駆け抜けた。

階段を飛ばし飛ばしで降りて表路地に出ると、コーラはまだそこにいた。

「市場の方に行ったって」

「分かった、ありがとよ」

コーラをその場に残し、スナメリは市場の方へと急いだ。


市場は村の中心から少し外れた所にある。

市場といっても、軒を連ねるのは数軒で、売られているのは近隣のキャンプと物々交換された物や、森で採取された花などだ。


スナメリは店の外から店内を覗き、そこにリーダーの後姿を見つけると、息を整えてから店の中へと入る。


スナメリよりも頭一つ身長の高いその男は、頭のサイドを大胆に刈り込み、それ以外の髪を高い位置で一つに結っている。

筋肉質で幅広い背中は、それだけで威圧感があった。

「リーダー」

その背中に向かって声をかける。

「何か俺に用でしょうか」

リーダーはその質問にすぐには答えない。

緊張感の漂う、言葉と言葉のを楽しんでいるようでもあった。

だがやがて口を開いた。

「今夜、晩餐の後、長老がお前の事をお呼びだ」

スナメリは驚いて視線を上げた。

長老は、このキャンプに住む人間の中で最も、長い年月を生きてきた人物だ。

そして一番の知識人として、キャンプの人々から慕われ、尊敬されている。

キャンプを取り仕切るリーダーは三年ごとに変わるが、そのリーダーも長老が決める。

このキャンプの実質の最高権力者と言ってよい。

ただ、齢をとりすぎている為、人前に出る事も、誰かに会おうとする事も、ずいぶん前からほとんどなかった。

「長老が、俺なんかに何の用でしょうか」

「そんなもん、知らん」

リーダーは吐き捨てるようにそう言った。

「それから、お前は女をこのキャンプに連れて来たそうじゃないか、巷ではその噂でもちきりだぞ」

一瞬身を固くしたスナメリは、はいとだけ答えた。

「今晩、晩餐の後、連れてこい、俺も長老の所にいる」

「分かりました」

それ以上話はないようで、暫くするとリーダーはこちらを振り返る事無く店を出て行った。



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