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オバール人達の地球  作者: 赤屋根
第二章 フロン
6/8

キャンプの中心部に向かうにつれて、人の行き来が激しくなってくる。

色々な人間がいる。大人に子供、男に女。見知らぬ私を珍しがり、露骨な好奇の視線を投げかけてくる人も多い。

アンナさんは細かい事は気にしない性質たちのようで、すれ違う人に愛想よく挨拶の言葉を投げかけながら、とある建物の前で足を止める。

「ここで湯あみをするのさ」

他の建物に比べ造りのしっかりとした、レンガ造りのそこに、アンナさんに続いて入る。

中は薄暗かった。

「何してるの?」

私は驚いて目を見張る。

アンナさんが着ていた衣服をすべて脱ぎ捨てたからだ。

「何って、湯あみするんだから当然でしょう、さあさっさと脱いだ脱いだ」

「いやだっ」

「何言ってんのさ、そんな汚れた体じゃ、どこへも行かれないだろう?女しかいないんだから恥ずかしがる事ないよ」


結局私はアンナさんに半ば強引に、湯あみをさせられた。

他の人間のように気持ち良いとはいかなかったが、とりあえずきれいにはなった。

私の背中の刻印タトゥーが、みな気になるようであった。

何処の言葉がと聞かれたが、曖昧にごまかした。


湯あみ前より疲れを増した私は、アンナさんによって再びどこかにつれて行かれる。

木造の建物の二階、一番奥の部屋のドアを叩く。

部屋の中からドアを開けたのはスナメリだった。

「とりあえず湯あみはさせた、この服、あげるから着るといいよ」

そう言うと、アンナさんは服の束を私の腕の中に押し付けた。

ありがとう、とお礼を言う。人間は親切な生き物だ。みな私に優しくしてくれる。

「ありがとう、アンナさん、恩に着るよ」

アンナさんの二の腕を軽く叩きながら、スナメリが言う。

「この子どうするんだい?共同宿泊部屋につれて行こうか?」

「森の中で倒れてた訳だし、暫く俺が様子を見るよ」

私はスナメリの部屋に上り込んだ。

こぢんまりとしていて、こざっぱりとした部屋。

しかし机の上だけは、たくさん積み重ねられた本や小道具などで混沌としている。

小さな窓から外を覗くと、目下の道を人が行きかっている。

また夕食の時間に、と言ってアンナさんは帰って行った。


スナメリに許可をとってから、私は彼のベッドに倒れこんだ。

もうくたくただった。

意識がすぐに手に届かない所まで遠のいてゆく。

まどろみの中で、スナメリが傍へ来た気配があった。

フロンはどこから来たんだ、と聞かれたような気がした。


どれ位眠ったのだろうか。

眼を覚ますと部屋は真っ暗だった。

辺りは不気味なほどの静寂に包まれている。

音をたてないようにゆっくりと身を起こすと、扉で閉められた窓の窓枠から、微かに薄明かりが漏れている。

外は白みはじめているのだろう。

スナメリは部屋の隅で、毛布にくるまって眠っていた。

本来彼が寝るべき場所を奪ってしまった事に、申し訳なさがこみ上げてくる。


床にそっと足を下ろすと、氷のように冷たい。

食べ物の匂いが部屋には漂っていた。

とたんに、自分がとてつもなく空腹である事を思い出す。

小さな机の端に、ボウルに入った食べ物が置かれていた。


「目、覚めたか」

私は驚いて部屋の端を見た。

「それ食っていいから」

スナメリは横たわったまま言う。

起きだしてくるつもりはないらしい。


「ベッド、使っちゃってごめんね」

私はボウルに手を伸ばしながら言う。

別に、とスナメリは言った。

隣に置いてあったスプーンを使って遅すぎる夕食をとる。

料理の味は、今まで食べたどの食べ物よりも美味しかった。

ねっとりと濃厚な芋に、動物の肉が少々、野草や茸のサラダ。

そのどれもが、生まれて初めて食べるものだった。


「おいしい」

感嘆の溜息とともにその言葉がもれる。

「よかった」

今にも寝入りそうな声で、スナメリは言う。


一人きりの晩餐を終えた私は、まだ温かさの残るベッドにもぐりこんだ。

見知らぬ場所、見知らぬ人と一つ屋根の下、恐怖は不思議と感じなかった。

そればかりか、今まで感じたことのない、安心さえ感じる。

やはり私のいるべき場所は、ここなのかもしれない、と思った。

安全なシェルターの外、汚染された地球で人間として暮らす、それが私のあるべき生き方なのかもしれない。

すべての物に感謝したくなるような幸福な気持ちに包まれながら、私は再びまどろみの中へと落ちていった。


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