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オバール人達の地球  作者: 赤屋根
第二章 フロン
5/8

人間達の言葉は、思ったよりも難解だった。

今まで、人間の言葉について、たくさん勉強してきたし、実践的な会話のトレーニングもつんだ。

しかしいざ喋ろうとすると、言葉はつまって、思うようには使いこなせない。


喉の渇きに耐え切れず、森の泉の汚された水を飲み、倒れた私はスナメリという少年に救われた。

スナメリという名前は、なんと不思議な響きか。

その名前に、何か意味はあるのか聞いてみたい。

他にもたくさん聞きたいことがあったが、なかなか聞けずにいた。


スナメリが連れてきてくれたキャンプは、こじんまりとしたものだった。

周りに、ぐるりとギンモクの樹が植えられている。

人間達がこの木を神木として崇めているのは知っていたが、私はこのギンモクの樹が苦手だった。

鼻の曲がりそうな匂いに、他のすべての香りは一切かき消される。

これではサヌドゥーク達が近づけないのも頷ける。


「着いたよ」

私の腕を自分の肩から外しながら、スナメリは言った。

「ここが俺らのキャンプだ、安全だから安心してゆっくりするといい、後でリーダーの所に挨拶に行こう」

眼を見て、お礼を言おうと思った。

明るみで見るスナメリの目は、深い緑色をしている。

私たちは無言でじっと見つめ合った。

何かを守ろうとするような優しさと同時に、絶望と悲しみをたたえる瞳から、私は視線を離せなかった。

スナメリは唐突に別の方向を向くと、一人の女性に声を掛ける。

「アンナさん!」

「スナメリ、あんた無事だったのかい?」

スナメリより一回りか二回り年上の、ずんぐりとした女性は、ぐんぐんこちらへ近づいてくる。

「あぁ、ギンモクの下で一晩明かしたんだ」

「よかった、ほんとに良かったよ」

女性はくしゃりとした顔をしながら、スナメリの乱れた髪を豪快に撫でて、さらに乱れさせる。


その行為に居心地の悪さを覚えたのか、スナメリはこちらに向き直る。

「フロンだ」

アンナさんと呼ばれた女性は、初めて私に気付いたかのように驚いてこちらを見た。

「よろしくね、フロン」

人の良い笑顔とともに、差し出されたアンナさんの手はふかふかとしていた。

人間流の挨拶。

「フロンと一緒に湯あみに行ってくれないか」

アンナさんは二つ返事で了解し、私は彼女についていく事となった。

別れ際に私はスナメリの方を振り返った。

まだこちらを向いている。

「また、後でね」

スナメリの所まで届くように、私は声を張り上げる。

彼は控えめに笑って、こちらに手を振った。

私は歩くのが早いアンナさんについてゆきながら、お礼を言うのを忘れてしまった、と思った。



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