表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オバール人達の地球  作者: 赤屋根
第一章 スナメリ
1/8

千年は、長い歳月だろうか、それとも一瞬の瞬きだろうか。

人間にとってそれは、何代もの世代交代がおこる、果てない時間だろう。

しかし惑星地球の歴史にしてみたら、それは一瞬の出来事にすぎないはずだ。


そのほんの僅か千年前、地球ここは美しい場所であったと聞く。

その昔地球の空は青かった、という事を口走る人間もいる。

それはにわかには信じがたい事だ、と重々しい茶色をした雲が厚くたちこめた空の下で思う。


その日、俺は、日々の生活の拠点である安全地帯キャンプを離れ、食糧となる野草を摘んでいた。

それは普段と何も変わらぬ日常だった。

二十年をこの地獄のような世界で生きぬいている俺は、階級としては年長(HIGH)に位置し、十代の中年(MIDDLE)階級のやつらより、遠くまで採集に行く。

重要なタンパク源を得る為に、もし獲物に遭遇すれば狩りだってする。

ただし、狩っていいのは地球原産の生き物だけだ。

決して、サヌドゥークを狩ってはいけない。

サヌドゥークとは、地球ではない惑星を生まれ故郷とする、動物全体を指す。

800年程前から地球に居座るようになったこの恐ろしく獰猛で俊敏な生き物達は、生態系において人間より上位に位置する。

サヌドゥークを傷つけようものなら、その者は間違いなくサヌドゥークによって命を奪われる。


何人仲間が、サヌドゥークに生きたまま食われるのを見てきただろうか。

その光景は鮮明に脳裏に焼き付き、森の中を歩く時、片時たりとも頭から離れない。

いつかは自分もサヌドゥークに食われて命を落とすという確信と諦めがある。

俺だけではない、今地球に生きる、正気を保っている人間なら誰しも、そう思っているはずだ。


鈍色の森を、神経を研ぎ澄ましながら歩く。

サヌドゥークには目も耳もないが、なるべく足音を立てぬように歩くのは、自分の足音でサヌドゥークがたてる足音をかき消さないようにする為だ。

突然不気味な音と共に風が巻き起こり、汚染された地表の土を舞い上げた。

それを吸い込まぬよう、顔に巻いた布を手でさらに覆う。


突然、心臓がどくりと跳ねた。

何かいる、風が生み出した小さな木枯らしの向こう側に。

無力な棒切れのように立ち尽くす体の中で、血だけは脈々と波打ち危険を知らせてくる。

絶望の中で鋭く目を凝らした先にいたのは、地面にうつ伏せに倒れた人間だった。


少しだけ落ち着きを取り戻し、ほんの僅か歩み寄ってみるが、やはり人間だ。

どうしようかと思う。

死んでいるのなら、見たくない、死体は嫌いだ。

しかし見たところ体はわりときれいだ。

結局見て見ぬふりはできず、そんな自分に半ば呆れながら倒れている人間に近づく。

どこからかギンモクの木の甘く優しい香りが漂ってくる。

しめたぞ、と心の中で思う。

ギンモクの木は、人間が唯一サヌドゥークから身を守る手段だ。


倒れていたのは美しい少女だった。

一瞬、自分が死の森の中にいるのを忘れそうになる程に。

少女の傍に座って、頬を触ってみる。

まだ温かいし、息もある。

しかし、体は小刻みに震え、ぐったりとしている。

危ない状態なのかもしれない。

屈んだ体制で苦労して少女を負ぶうと、甘い香りを頼りにギンモクの木の元へ向かい歩き出す。

途中、少女が耳元で何かうわ言のように囁いた。

それは聞いたことのない言葉で、何故かすごく耳障りな響きだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ