不穏な影 2
二人の言葉にロザリアはまた驚きながらいっそう目を丸くした。
まさか二人が、同性同士だと理解した上で穏便に事をすすめようとしてお見合いを続けているとは思ってもみなかったからだ。
「え、ええと……二人はそれでいいのですか?」
驚いた顔のままに当然の疑問を問うロザリアに、イシュタルは少し笑って頷く。フィニアもまた小さく「はい」と返事をした。
「えぇ……で、でも、二人は結婚出来ませんよね……? んん?」
「姉さん、たしかに私は女性だし、フィニアも同じだ。私たちは結婚は出来ないかもしれない」
イシュタルは微笑んだまま、そう落ちついた声でロザリアに言葉を語る。
「しかし私はフィニアが好きだ」
「え?!」
イシュタルの思わぬタイミングの告白に、思わずフィニアは顔を赤くして照れる。
ロザリアも「まぁ!」と驚きの声をあげたが、イシュタルは二人の反応を無視してさらにこう言葉を続けた。
「私の正体を知っても軽蔑せず、事情を受け入れ、友人として好意的に接してくれる優しい彼女のことを、私もすでに友人として大切に思っている。だから……出来ればこのまま、友人として付き合える方法があればいいのだけど……」
そう言って悩むように目を伏せたイシュタルを、フィニアは『友人として好きね、わかってた』というふうな悲しげな笑顔で一瞬見つめ、すぐに表情を彼女を励ます笑顔へと変えた。
「私も同じです! イシュと……と、友達として今後も仲良くしたんですっ。だから今回のこと、何かうまく終われるような方法があればと、色々と考えてはいるんですが……」
二人の言い分を聞き、ロザリアは少し考えた後に「なるほど」と納得した表情を浮かべる。
妹のことを心配して、こうして遠いアザレアの地まで来た彼女だが、どうやら自分が心配していたようなトラブルは今は起きていないらしい。
しかし二人はこのお見合いをどう終わらせたら一番なのか、それを悩んでいるようだ。ならば、可愛い妹を思う姉として協力すべきことは一つだと理解する。
「二人の考えは理解出来ました。二人はこのお見合いを何事なく終わらせつつ、今後も良好な関係を築いていきたいと……そういうことですね?」
「ま、まぁ……そういうことだね、姉さん」
イシュタルが頷くと、ロザリアはにっこりと笑ってこう言った。
「ならば私も全力で協力しましょう。元々イシュが心配でここまでやって来たのです。あなたの心配を解決するため、私もどうしたら穏便に今回のお見合いを終わらせられるか考えますよっ」
そう言って胸を叩くロザリアに、イシュタルは苦い笑みを浮かべながら「ありがとう、姉さん」と言葉を返す。フィニアも、嬉しそうな笑顔で頭を下げた。
「ロザリア様、ありがとうございます」
「あら王女、妹のことは『イシュ』と呼んでくれているのだから、私のことももっと気軽に呼んでくださっていいんですよ?」
「え、えぇ?!」
ロザリアの言葉にフィニアは慌てるが、ロザリアはそんな彼女の様子を面白げに笑って眺め、優しく「ね?」とフィニアに告げた。
「私も愛称の『ロザリー』と呼んでくださってもいいのですよ」
「そ、そんな……ウィスタリアの次期女王様をそんな風には……」
なぜか恐縮するフィニアの様子を見て、ロザリアはおかしそうに笑いだす。そのロザリアの様子にフィニアが目を白黒させると、イシュタルもまた姉と同じように笑いだした。
「え、えぇ?! なぜ二人して笑うのです~?!」
「いえ、王女が、あまりにも……その、面白いので。そんなこと言う王女様、初めてお会いしました」
「あぁ、面白いだろう? フィニアは何と言うか、いい意味で王女らしくなくて……本当、出会ってから毎日楽しいんだ」
姉妹二人が自分のことで楽しそうに笑っている様子にフィニアは戸惑うが、しかし二人とも悪い意味で笑っているわけではないので、フィニアも苦笑いを浮かべた。
「た、楽しんで頂けて何よりです……あはは……」
「あぁ、ごめんねフィニア。別にそんな、笑うつもりはなかったのだけども」
慌ててフォローするイシュタルは、フィニアに「ごめん」と告げて、ロザリアにまた向き直った。
「姉さん、協力は感謝するよ。でも正直私たちもまだ具体的にはどうしたらいいのか、思いついていなくてね」
「そうですねぇ……とても難しい問題ですからね。私も、協力するとは言ってもすぐに解決策は思いつきませんね」
腕を組んで悩むロザリアは、「そもそも、なぜお母様たちはイシュをお見合いさせたのでしょう」と呟く。イシュタルもその呟きに「本当にね」とため息交じりに頷いた。
一方で真実を予想しているフィニアとロットーは小さく目を合わせて、おそらく同じことを考えて苦笑いを浮かべた。
そうしてしばらく姉妹二人が『う~ん』と首をひねっていると、今まで黙って彼女たちの会話を聞いていたロットーが口を開く。