前途多難過ぎる恋 46
自分の恋で頭がいっぱいいっぱいだったフィニアは、すっかり忘れていたと苦い顔になる。
勿論王たちはイシュタルが女性ということは知っているようなので、改めて自分が説明する必要はないのだが。
「……お父様は、イシュが女性だと……し、知っていたようです」
「え!? そうなの?」
性別詐称という大嘘をついているフィニアだが、基本的に嘘がつけない小心者なので、しどろもどろと正直にそう話す。
イシュタルはひどく驚いた様子でフィニアをまじまじ見つめ、「知っていたのか……」とその驚きを言葉にして呟いた。
「う~ん、知っていて王は私とフィニアのお見合いを承諾したということだよね? ……よくわからないな」
「あはははは、ですよねー」
ダメだ、やっぱり笑って誤魔化すしかない。
フィニアは乾いた笑い声を発して、「お父様って時々突飛なことするんで」とイシュタルに言った。
「き、きっとあれです! イシュが素敵な人だから、是非お婿さんに迎えたかったんですよ!」
「そ、そう? ……でも、フィニアに相談も無しにそんなこと……」
イシュタルのその呟きには、フィニアも全力で同感だった。
「そうですよね、相談してくれたら俺も……」
「ん?」
「あ、いえ! なんでもないです!」
フィニアはブンブンと激しく首を左右に振る。イシュタルは不思議そうな顔でそれを眺め、そしてしばらくして決意したような険しい表情で彼女はこうフィニアに告げた。
「やはり私も王と話しをしないといけないね」
「え、お父様とですか?」
イシュタルのその発言にフィニアは焦る。
父親である王と彼女が話したら、もしかしたら自分の真実がばれてしまうかもしれない。それはまずいので彼女を止めないと。
「そ、それは……あの……」
しかし結局イシュタルの「フィニアの為にも、今回のお見合いのことをしっかり話し合わないと」という一言で、フィニアは彼女を止めることが出来なくなってしまった。
「フィニアもやっぱり今のままじゃ困るものね。どうにか今回の事が上手い形で終わるよう、私も王と話しをさせて」
「は、はい……わかりました」
真摯な眼差しを向けられて、フィニアは頷くしかなかった。そしてこの後速攻で王に根回しをすることを、彼女は計画する。
(父さんはイシュと俺のこと応援してくれてるみたいだし、事前に説明すればなんとかなるよな。とにかく俺が男だってことだけは、父さんに言わないよう伝えとかなきゃ)
自分が本当は男だということが今ばれるのだけはまずいと、フィニアはそれだけを心底恐れていた。
ばれたらそこで終了である。だってついに何も知らない彼女と一緒にお風呂まで入ってしまったんだから。
でも、それはただの逃げじゃないか? と、そんな残酷な問いがフィニアの脳裏を掠めた。
いつかは言わなくちゃいけない。本当のことを。
(……いつの間にか俺、どんどん追い詰められてるな)
男だと隠していることが追い詰められていく元凶なのだが、今更言えない。でもいつか言わないといけないし、言わなきゃますます追い詰められるジレンマ。
「……フィニア、大丈夫? なんかこの世の終わりみたいな顔してるけど」
「だ、大丈夫です……」
イシュタルとハッピーエンドを迎えられるかどうかの残り時間はあと七日しかない。
十分にあるとはいえない制限時間が、さらにフィニアを精神的に追い詰めていた。
「あ、あの……イシュ……」
「どうしたの?」
「その、ですね……」
追い詰められていることを自覚して精神的に余裕がないからか、なんだか上手く頭が働かなくて何を言えばいいのかがわからなくなる。
「……フィニア?」
「あの、自分本当、は……」