前途多難過ぎる恋 45
フィニアは意を決して、湯船に近づく。先にお湯に浸かったイシュタルの頬はほんのり朱色に染まり、物凄く色っぽかった。
「お、おじゃまします……」
何となくそんなことを呟きながら、フィニアは薔薇の香りがすごいお湯にバスタオルごと体を浸ける。温かなお湯は緊張していた体を優しく包み、そのほんの一瞬フィニアは緊張を忘れてホッと心地よい溜息を吐いた。
「気持ちいいね」
「はい……ハッ!」
イシュタルの声に普通に返事をしたあと、フィニアはお風呂の癒しで一瞬真面目に忘れていた自分の今の状況をまた思い出す。
こんなやたらと緊張する空間で、一体どうイシュタルと会話をすればいいのだろうか。
「それにしてもフィニアって細いね、腕とか足とか」
「へ!?」
イシュタルがまじまじとフィニアを見つめ、フィニアは彼女の視線に赤面しながらうろたえる。
「肌も白いし……私って筋肉質だから、フィニアみたいな女の子らしい体付きには憧れるな」
「そ、そんな……! 私なんかより、イシュの方が全然!」
フィニアが顔を真っ赤にしたまま激しく首を横に振ると、イシュタルは「私は全然女の子らしくないよ」と苦笑混じりに言う。そして彼女はフィニアに、「ほら、触ってみて」と言って腕を差し出した。
「へぇ!? さ、触ってって……そ、そんな、いいい、いいんですか?」
「? うん。結構硬いから、驚くかも」
イシュタルの肌に触れるという行為に、フィニアはまたいっそう緊張する。こんなに肌を露出している彼女に触れるなんて……と、フィニアはいつ鼻血が出るのかハラハラしながら彼女の腕にそっと触れた。
「ね? 鍛えてるからしょうがないというか、まぁ当然なんだけど。でもやっぱり少し気にしちゃうんだよね」
フィニアが恐る恐る腕に触れると、イシュタルはそう言って笑う。
確かにイシュタル脳では鍛えているからかフィニアとは違う硬さだったが、しかし引き締まっている腕という表現がぴったりだとフィニアは思った。騎士として鍛えて引き締めるところは引き締め、でも女性らしい部分はしっかり残している、というか……そんなことを考えていると、どうしても目はイシュタルのその魅力的な胸 元に向かってしまう。男の性なので仕方ないのだが、フィニアは慌てて彼女の胸から目を逸らして俯いた。
「そんな、全然、気にすることないと……思うんですけど。逞しいというより、適度に引き締まっていて綺麗です……すっごく」
「そ、そうかな? ……そうだ、鍛えていたからあの時窓から落ちてきたフィニアを助けられたんだよね。そう考えたら、鍛えてて良かったかな?」
イシュタルはあのとんでもない出会いを思い出したらしく、そう言っておかしそうに笑う。フィニアにとっては恥でしかない失態なので、フィニアの顔はまたいっそう赤くなった。
「あ、あれはもう忘れてください……ほんと、すいません……っ」
恥かしそうに俯くフィニアを見て、イシュタルはまた少しおかしそうに笑う。フィニアはますます居心地悪そうに縮こまった。
「……そういえばフィニア、もう三日目だけど」
「は、はい?」
唐突なイシュタルの言葉に、フィニアは戸惑う。何が三日なんだろうとフィニアが首を傾げると、イシュタルは「お見合いのこと」と言葉を付け足した。
「あ、そうですね」
別にお見合いを忘れていたわけではないが、突然その話題になった為にフィニアはちょっと戸惑う。
「えっと……」
フィニアが返事に困っていると、イシュタルは少し表情を険しくさせてこう口を開いた。
「どうするか、そろそろ考えないといけないよね」
「あ……」
そういえば、とフィニアは思いだす。イシュタルに好かれようと、そればかり考えていたせいで、お見合いの問題をすっかり忘れていた。いや、正確には『お見合いを成功させる』という目標は頭の中にあったが、それに関わる様々な問題を重要視していなかった。
「やはり女性同士では結婚なんて無理だよね。……そういえばフィニア、アザレア王たちに私のことを話してくれたのかな?」
「……えーっと」