前途多難過ぎる恋 38
「それでイシュ……こんなことイシュに聞くのって変だとはわかっているんですけど」
「どうしたの?」
不安げなフィニアを見て、イシュタルは首を傾げる。フィニアは恐る恐る彼女に聞いた。
「イシュのお姉さんって、私のこと気にいってくれますかね?」
まさしくイシュタルに聞いても仕方のないことなのだが、イシュタルは「勿論だよ」と笑顔で答える。その一言でフィニアの心はだいぶ安心できた。
「ですよね、イシュのお姉さんですもの、優しい人ですよね!」
「うん。きっと姉さんもフィニアのこと好きになるよ」
イシュタルの後押しもあり、フィニアは『ちゃんとお義姉さんに挨拶してみせるぞ』という気合に燃える。イシュタルはそんなフィニアを微笑ましく見つめた。
◇◆◇
「ロットー、俺もうまじでイシュタルとオトモダチでもいいかも……」
「ちょっと王女、なに言ってるんですか」
イシュタルとの心地よい花園での一時を終えた後、フィニアは何故かそんなことをロットーに言う。ちなみに今二人はフィニアの部屋で今後の事についての何度目かの作戦会議中だ。
「しっかりしてください、さっきあんなにいい雰囲気で王子と話出来てたってのにいきなりなんでそんな弱気発言なんですか」
賞与の有無がかかっているロットーは、当初とはフィニアをサポートするやる気が違う。なので彼は何故か急にまた弱気な発言をする彼女を真面目に問い詰めた。するとフィニアはこう答える。
「だって……さっきのがいい雰囲気過ぎて、本当のこと言った後に今の関係が壊れちゃうのも怖い……」
初めて意識した異性とスムーズな会話が出来たことが、フィニアにとって余程嬉しい出来事だったのだろう。イシュタルに”友達”として好意を持ってもらい、そして信頼してもらえている今の関係は、ある意味フィニアには心底心地の良いものだった。そしてその心地よさが誘惑となり、フィニアにイシュタルとの関係の変化に抵抗を感じさせ始めていた。
今の関係を壊し、新たな関係に移る行為が怖い。『失敗すればもう二度と彼女と穏やかな気持ちで会話なんて出来ないかもしれない』というリスクが、フィニアを怯えさせる。
「お、王女! 駄目ですよ、お友達のままじゃ! 王女は王子の事好きなんでしょ?!」
「好きだけど……でも今のままでもイシュは俺のこと好いてるんだし、もうイシュとああやってのんびりお話できるだけで十分すぎるくらい幸せって気もしてきたんだ……」
フィニアは大真面目に悩んだ顔で「これ以上の幸せを望むのも、俺には高望みな気がするし」と呟く。自分に自信がないフィニアらしい結論だと、ロットーは思った。しかし金が欲しい……いや、フィニアのことを本当に心配するロットーはそれでは納得しない。
「王女、恋人同士ならもっと幸せな気持ちになれますよ。……多分」
「えー……でも」
「たとえば友達では出来ないこんなこととか、恋人同士なら……」
ロットーは怪しい笑顔でフィニアの耳元に誘惑を囁く。そして徐々にフィニアの様子が変わり、仕舞いには沸騰しそうなくらい真っ赤な顔で「わああぁあぁあぁぁぁぁっ!」と叫びながら、いかがわしい事を吹き込むロットーを全力で蹴り飛ばした。
「いってぇ……なんすか王女、暴力反対ですよ」
「ううううるさいな! ロットー、お前イシュ見てそんなやらしいこと考えてたのか! この変態!」
フィニアは顔真っ赤にしながらロットーを睨みつけ、とにかく全力で彼を非難する。ロットーは蹴られたお腹を痛そうに手で押さえながら、「やっぱり純情な王女にはちょっと刺激強い話でした?」と笑った。
「でも実際キモチイイですよ? 王女は寂しく独りプレイしかしたことないんでしょうけど」
「ぎゃあぁあぁやめろ! お、俺は別にイシュとそんな……うぎゃあぁあぁああぁぁ! と、とにかくイシュとお話ししたり並んで歩いたり、そういうことできればもう幸せだって気づいたの! そ、想像させるな馬鹿!」
「そんな想像したくらいで大袈裟な反応……これだから恋人いない歴イコール年齢の童貞は……ハァ」
「うぎゃあああ、コロス! お前なんてぼっこぼこにして捻り潰してやる!」