前途多難過ぎる恋 35
一方フィニアたちは、二人でほのぼの談笑しながら花園へ向かう。
「アザレアの花か。城に来る途中に城下で紅い花を何度か見たけど、あれかな?」
「あ、今の時期は国中でアザレアが咲いてるのできっとそうですよ! でも、ここの花園に咲くアザレアはとくに綺麗だって評判らしいです! 私もたまーに見に行くんですけど、ホント、綺麗です!」
「そうなんだ。ふふっ、楽しみだな」
イシュタルと話をするフィニアのテンションは上がりまくりだった。何故なら昔から綺麗な花と景色が素晴らしいあの花園で、好きな人と一緒に散歩でも出来たらきっと楽しいだろうな~などと夢見ていたからだ。
(あ~、好きな人と外歩くって、それだけで楽しいな~)
なんか今のこの瞬間が幸せすぎて、フィニアはほんの少し不安になる。夢とかドッキリだったらどうしようと、別にイシュタルと好き合ったというわけでもないのに、幸せを感じつつもわりと真面目にそんな心配をした。
花園は小高い丘にあるために、ほんの少しなだらかな坂道を登っていかないといけない。
坂道をイシュタルを案内しながら歩くフィニアは、男の時は履いた事の無かった歩きにくい踵の高い靴が、坂道だととくに歩きにくいなと感じる。バランスを崩しやすく、気を抜けば転びそうになるのだ。そしてお約束と言うかなんと言うかうっかり者のフィニアは、道に転がっていた小さな石を踏んで転びそうになった。
「うおわぁっ!」
「フィニア!」
つんのめったフィニアは男らしい悲鳴をあげて顔面から落ちそうになるが、咄嗟にイシュタルが彼女の腕を引っ張って体ごと自分の方へ引き寄せる。イシュタルに助けられたので倒れずに済んだフィニアは、必然的にイシュタルに急接近することとなって、今度は別の意味での悲鳴をあげた。
「うひゃあ!」
「え? ど、どうしたの?」
背中に触れるほど近くに彼女の存在を感じ、フィニアはまた大袈裟に照れる。やっと普通に彼女と会話が出来るようにはなったフィニアだが、やはりまだイシュタル、というか女性に慣れていないらしい。フィニアの反応に驚いたイシュタルが慌てて手を離すと、フィニアはパニックに陥ったのかくるくる回りながら彼女から離れて、仕舞いには真っ赤な顔をしてその場にしゃがみ込んだ。どんだけヘタレなのだろう。
「フ、フィニア……ごめんね、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……たぶん……」
「怪我は?」
物凄い恥かしい自分の姿をイシュタルに見られてへこむフィニアだが、イシュタルはそんなことよりもフィニアに怪我は無いかと心配する。勿論イシュタルが助けてくれたので怪我は無いフィニアは、直ぐに立って「怪我は無いです!」と返事した。
「そう。なら良かったけど……」
「は、はい……助けていただいてありがとうございました。あと、いきなり叫んで驚かせちゃってすいませんでした」
まだ心臓が強く脈を打っている。助けてもらってちょっと背中が触れただけなのにこの反応なのだから、そりゃロットーも『女性に耐性なさすぎる』と呆れるよなぁと、フィニアは溜息を吐いて落ち込んだ。
「う~、どうしたら女性に平気で触れるようになるんだ……?」