前途多難過ぎる恋 34
「すいませんメリネヒさん、突然妙な誘いをしてしまって。どうしても王女と王子を二人っきりにしたかったので……」
そんなことを小声で言いながら、城の庭をゆっくりと歩くフィニアとイシュタルの後をそっと追跡するロットー。
「いえいえ~、お二人の仲をより親密にする為ですものね~」
フィニアたちの後をこっそりつけるのはロットーだけでなく、彼に『話がしたい』と誘われたメリネヒも一緒に、こそこそと植木などに身を隠してフィニアたちの後をつけていた。
メリネヒを誘ってフィニアとイシュタルを二人きりにしたロットーは、フィニアと別れる直前に彼女へ『この後は城の西の花園へ王子を誘うといいですよ』と伝えた。城の西の花園とは城の直ぐ側、徒歩で数分という距離にある見通しのよい丘に花咲き乱れる広い保養地だ。城の庭師が年中欠かさず手入れをしている場所で、王家の所有地内にあるが時折一般の国民にも開放している。季節によって違う花を色とりどり咲かせるそこは開放時には多くの国民が花の美しさを堪能するために訪れ、フィニアもお気に入りの場所だった。
タイミングよく今の花園にはアザレアの花が多く咲いている。初代アザレアの王が生み出したというアザレアの花を是非王子に存分に見てもらい、そして二人にはいい雰囲気になってもらおうと言うのがロットーの作戦だった。
「それにしてもお花がいっぱいの場所ですか~、素敵ですねぇ~」
「あの場所にもさりげなく警備兵がうろうろしてるし危険は無いと思うから、俺たちはのんびり二人を見守っていましょう」
「はい~」
花園へ向かうフィニアたちの後ろ姿を眺めながら、メリネヒは「それにしてもお二人お似合いですよねぇ~」と小さく呟く。正直ロットーは美人で強くて優秀な完璧王子と色々空回りばかりで駄目な王女の組み合わせはお似合いなのか? と疑問だったが、「そうですね」と頷く大人の対応で返事をした。
フィニアたちは庭を出て、花園へ向かう小道へと入る。楽しそうにお喋りをしている二人を見ながらロットーたちも進んでいると、メリネヒがまた小声で呟いた。何故か顔は真っ赤だ。
「も、もしかして二人いい雰囲気になりすぎて、あんな事とかこんな事とか起きたらどうしましょう~ドキドキしますぅ」
「あんな事やこんな事?」
「王子がフィニア王女にキスしたり、押し倒しちゃったりとかしたら~……きゃあぁ、ドキドキですねぇ~」
「……メリネヒさんって王子が女の人だって、当然知ってるんですよね?」
「勿論ですよぉ~」
「……」
知っていながらとんでもないことを平然と言うメリネヒに、ロットーはちょっと驚く。このドジッ子眼鏡娘は、ぼんやりと何も考えてなさそうな顔をしていながら、実は意外にぶっ飛んだ思考の持ち主だったのだ。
「でもぉ、王子って女性なのにかっこいいじゃないですかぁ。背も高いし美人ですし、剣持ってるときなんてもう本当にかっこいいんですよぅ~。もえもえなんですぅ~。だからついつい王子のことで妄想しちゃうって言うかですねぇ~、ああぁ妄想だなんて恥かしいです~すいませんすいません~」
「は、はぁ……」
「正直私、王子みたいな人と結婚したいって思います~。フィニア王女もきっと王子にメロメロですよね~」
「え、えぇ、フィニア王女はもう完全に王子に心奪われてますよ。……っていうか、メリネヒさんってあの、そういう人なの?」
「えへへ~、フィニア様もなでなでぎゅうってしたいくらいかわいいですしぃ、二人が結婚したら絶対子供は美人で可愛い子が生まれますよねぇ~。そうですねぇ、名前は男の子だったらフュリーリヒで女の子だったらアリメイアがいいですよぉ」
「あのぉ、あの二人で子供ってどうやって……メリネヒさん、しっかりしてください」
メリネヒの妄想は止まらず、彼女は呆れるロットーの声など耳に入らないようで「うわわわ私が名付け親なんて、そんなの駄目ですよね~」と延々妄想を呟く。ロットーは『この人が付き人で王子は毎日疲れないのかな?』と本気で思った。