前途多難過ぎる恋 33
「勿論今回の見合いのことですよ」
「むっ」
フィニアは興味を持ったようで、身を乗り出してよく話を聞こうとする。
「なに? 何かまずいことでもあるの?」
「まずいことだらけじゃないですか、今回のお見合い」
ロットーのツッコミはまさにその通りで、フィニアは「それはそうだった」と神妙な顔で頷く。
「そもそもイシュタルも俺も女性だもんな」
「王女が変な暴走しなければまだせめて男女のお見合いで済んだのにね」
「うるさいなー、過ぎたことはもうしょうがないだろ。っていうか別に俺、男に戻る事だって出来るんだから」
フィニアは『さすが親子』と言いたくなるほど父親とそっくり同じ事を言う。そんなフィニアにロットーは小声で「戻る勇気が無いのが問題ですけどね」と、フィニアの心に痛いことを言った。しかしいちいちショックを受けていてもしょうがないので、フィニアはロットーに話の続きを聞く。
「で、父さんなに言ってた?」
「要約すると、『何とかしないとね、今回のお見合い』って事でした。あ、フィニア様が王子が女性だと知ってることは報告しましたから」
「そっか。……つーか父さん、なんで事前にイシュが綺麗な女の人だって教えてくれなかったんだよ。知ってたんだろ?」
「知ってたけど、黙ってたほうが面白いって王は思ったんでしょ。実際は笑い事じゃないくらい複雑なことになっちゃいましたけど」
「ううぅぅ、全くだよ。まぁ女の子だからか、イシュとは結構早くに仲良くなれたけどさ。でもこっから恋愛にシフトさせるのはなー……」
「難しいですよね。王も色々困ってました。で、王とオリヴァードさんとで話してきたんですけど、王としてはやっぱり王女にイシュタル王子と結婚してもらいたいらしいですよ。王女は今女の子なのに、王は無茶いいますよねー」
「確かに無茶だけど……俺が無茶だって言って諦めちゃいけないだろ。それにそれって父さんが応援してくれてるってことだよな? あ、なんか応援してくれる人がいるとわかると心強いかも~」
「応援、ねぇ……まぁ王女が元気になるなら、その解釈でもいいですけど。あぁ、勿論俺も応援してますよ。なんてったってこのお見合いを成功させれば俺に特別賞与が……」
「え、なに? しょう……なんだって?」
「あ、いえいえなんでもないです。王女にはまったく微塵も関係ない話ですから。とにかくフィニア王女、何が何でもイシュタル王子とラブラブになってくださいね。今回のことは王女自身が何とかすべき事態で、えーっと、きっとこれは王女が成長するための試練なんですよ。だから王女、とにかく頑張ってください」
「あれ、結局俺が頑張るんだ。父さんたちからなんか協力とかアドバイスは無いの?」
「王女の恋なんですから、王女が頑張るんですよ。王たちは王女を全力で応援してるけど、それだけですから。代わりに俺が出来る限り王女をお手伝いしますんで」
「う、うん……なんかロットーが急に前向きになって俺のこと手伝うっていう状況がすっごい不気味なんだけど……でもわかった、頑張る」
急に物凄いフィニアに協力的になって戻ってきたロットーに不信感を抱きながらも、フィニアはとりあえずこの恋について全力で頑張る事を改めて決意する。彼女は「よし、イシュに異性として好かれるよう頑張るぞ!」と、気合入りまくりで拳を突き上げた。
「私がどうかした?」
「ぎゃああああぁぁっ!」
拳を突き上げた瞬間に背後から愛しいイシュタルの声が聞こえ、フィニアは思わず悲鳴を上げる。その悲鳴にイシュタルと、それと彼女と共に戻ってきたメリネヒは揃って驚いた。
「フィニア、ど、どうしたの!?」
「……はっ、イシュ! ごめんなさい、突然声をかけられてものすっごく驚いてしまいました!」
心臓バクバクで振り返ったフィニアは、不思議そうに目を丸くするイシュタルに笑顔で誤魔化す。誤魔化されきれないイシュタルが首を傾げながら「私の話をしていたようだけど」と聞くも、フィニアは「い、イシュはどんな食べ物が好きかなーって言う話をしていたんですよ!」と苦しい言い訳を続けた。
「あぁ、そうなの? 私は好き嫌いは無い方だから、わりと何でも食べるよ」
「そ、そうなんですか! 私もです! 同じですね、えへへ!」
「? うん、同じだね」
イシュタルがよくわからないまま頷き、フィニアは『なんとか誤魔化せたか』と心の中でガッツポーズする。ロットーは『好き嫌いあるくせに』と心の中でツッコミを入れていた。ツッコミついでに彼は「そうだ」と何か思いついたように呟く。フィニアは「どうしたの?」とロットーに聞いた。
「ん、あぁ。いえ、ちょっと大事な事思い出しまして」
「大事な事? なに?」
フィニアが問うと、ロットーはメリネヒに視線を向ける。そして彼は「ちょと俺メリネヒさんとお話があるんですが」と言った。
「ふぇ、私ですかぁ~?」
「はい、あなたです」
唐突にロットーから指名され、メリネヒは驚きのあまり大袈裟にリアクションをして眼鏡の位置をずらす。彼女は眼鏡の位置を指先で直しながら、「な、なんでしょう~?」とひどく不安げに首を傾げた。
「あ、わかった! ロットー、それナンパでしょ! 間違いない!」
「あはは、王女違うんで黙ってください。俺はただメリネヒさんとお話したいことがあるだけです。大事なお話しなんで、二人きりで」
ロットーはフィニアの言うナンパを否定するが、フィニアは疑いの眼差しのまま「絶対そうだ」と言い続ける。ロットーは疲れたように溜息を吐いた。
「メリネヒ、気をつけてね! 襲われそうになったら目を狙うといいよ! こう、ガッて!」
「ええぇえ~、目をですかぁ~?」
「ちょ、王女いい加減にしてくださいよ……」
ロットーは物凄く疲れながらも、その後メリネヒを誘い出すことになんとか成功する。そうしてフィニアとイシュタルはまた二人きりとなった。
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