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gloria  作者: ユズリ
前途多難過ぎる恋
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前途多難過ぎる恋 32

「?」


 イシュタルとメリネヒが不思議そうな顔をしているのを見て、コハクが「勝手に外したらお姉様はお父様たちに凄く怒られる事になるんです」と説明した。


「怒られる?」


 イシュタルはコハクへ視線を向けて、詳しいことを聞きたそうに首を傾げる。コハクはほんの少し迷いながらも、こう続けて説明した。


「その腕輪はお姉様の魔力を抑えているんです。お姉様は魔術師として恵まれすぎている量の魔力を持っていますから、その魔力をアーティファクトの腕輪で標準量に抑えているんです。ちなみにじいやの話では、お姉様の魔力量はその後一生寝たきりを覚悟すればエドゥナー大陸の三分の二を消滅できるくらいあるそうです」


 コハクのその言葉を聞き、イシュタルとメリネヒは驚いた様子でフィニアを見る。二人の視線を受け、フィニアは何故か動揺した。


「そうなのか、フィニア」


「王女様、なんだか凄いんですねぇ」


「あ、あはは~……」


 苦笑するフィニアに、メリネヒは「でもどうして腕輪で魔力を抑える必要があるんですかぁ?」と疑問を問う。フィニアは冷や汗だらだらで、「そ、それは……」と口ごもった。

 腕輪の話をすると、自分が本当は男だという話に行き着く可能性がある。そしてそれはまずい。馬鹿正直に真実を今ここで言う勇気はないし、さてどうしよう。


「えっとですねぇ……」


「危険だからですわ。大きな力を個人が持つと言うのは、それだけで危険なんですとお父様たちはおっしゃっていました。お姉様が力を間違った事に使わない保証は無いですし、何らかの要因でお姉様の意図しない形でその力が暴走する危険もあります。ですから普段は適正量に抑えて、お父様たちの許可が無いと腕輪を外す事が出 来ないよう決められているんです」


 コハクはしどろもどろするフィニアを尻目に、すらすらと説明を続ける。フィニアはコハクがどこまで自分のことを喋るのか、どきどきしながらイシュタルたちと共に話を聞いた。


「それにアザレアでは魔術師として高い才能を持つ者は尊敬されますが、その才能に恵まれすぎていると逆に不吉の目で見られますの。お二方はアザレア王家の血を引く男児のお話をご存知でしょうか?」


 コハクがどんどんやばい方向へ話を進めていくので、フィニアは胃が痛くなる。しかしどこで妹の話を止めたらいいのかわからない。フィニアが痛む胃を押さえながら迷っていると、イシュタルが「確か大きな力を持って生まれるから、殺されるとか……」とコハクの問いに答えた。


「えぇ。アザレアでは恵まれ過ぎた魔術の才能は、不吉とされますから。アザレアの初代王ソルフェリノの血を引く王家の男児は、そのソルフェリノ同等の力を持って生まれると言われております。それこそ単独でエドゥナー大陸を消滅させることが出来るほどに」


 コハクは怯えるフィニアを横目で眺め、「ですからアザレアの血が世界を混乱に陥れるような最悪な間違いが起きないように、幼いうちに力のありすぎる者は殺されてしまうのです」と言う。フィニアはまた涙目だった。


「こここ、コハク……あの、さ……そ、それくらいにしてくれたらお姉ちゃん嬉しいんだけど……」


「あらお姉様、どうしてそんな泣きそうな顔をしているんですか? カニのはさみにはさまれた指が痛むんですか?」


 コハクがイシュタルに自分の秘密をぶっちゃけそうな雰囲気がフィニアを追い詰める。コハクはとどめと言わんばかりに、フィニアを見てさらにこう言った。


「お姉様がそんなに怯えること無いじゃないですか。だってお姉様は女なんですから。その腕輪さえ嵌めていればお姉様は安全なのだと皆様了解しているんですし、今の話でお姉様が怯える要素は無いと思うんですけど」


 マリサナが溜息まじりに「コハク様」と小さく声をかける。コハクはやっぱりそっぽを向いて知らん顔をした。


「フィニア大丈夫? すごく顔色悪いけども……」


「ううぅ~、大丈夫です……ちょっと胃が痛いだけで……うぅぅ」


 フィニアはお腹を両手で押さえながら必死に笑う。本当に心臓と胃に悪い会話だ。とりあえずコハクが直接秘密をばらさなかっただけ良かったと、フィニアはそう思うことにした。


「はぁ~……ところでフィニア王女様、王女様は今その腕輪をしていて魔術が使えるんですかぁ?」


「え、魔術?」


 メリネヒが興味深そうに腕輪を見ながら問う。フィニアは「まぁ、簡単な術ならね」と答えた。


「かんたんな術とは~?」


「うん。さっきのコハクが使ったような眠りの術とか、あと焚火用に火を起こすとかそれくらいなら使えるよ」


 元々フィニアは国の結界を機能させるため恒常的に魔力を消費しているので、腕輪を付けると本当に子供だまし程度の術しか使えなくなるのだ。それで今までとくに物凄く困ったことは起きた事が無いので、別にそれをフィニアは気にしていない。


「へぇ、そうなんですかぁ……」


 メリネヒはフィニアの説明に頷き、そして鼻の頭からずれ落ちた眼鏡の位置を直しながら、やはり興味深そうに腕輪をじっと見つめていた。




◇◆◇




「あ、いたいた王女。五分くらい捜しましたよ」


 そう言いながらフィニアの元にやって来たのは、王との話が済んだらしいロットー。


「あ、ロットー。お前どこ行ってたんだよ」


 イシュタルがメリネヒと蟹を何処かへ運びに行っている今、テラスでお茶飲みながら二人を待っていたフィニアは、ロットーが姿を見せたことにちょっと安堵の表情を見せた。ちなみにもうコハクとマリサナは立ち去ったらしい。フィニアは召使の女性にお茶を入れてもらっていた。


「もー、頼れるロットー様が側にいない時の俺の不安がどれくらいなものなのかお前は知ってるのか? 例えるなら裸で雪山に放り出されるような不安なんだぞ!」


「王女、なにわけわかんないこと言ってんですか。つか俺あんたのことで王に呼ばれてたんですよ」


「へ? なにそれ」


 フィニアは怪訝な顔で「なんで俺のことでロットーが呼ばれんの?」と聞く。ロットーは真面目な顔で「それは俺が聞きたいですよ」と、最もな返事を返した。


「全く、俺は王女の保護者じゃないんだから」


「あはは、保護者は父さんの方だよねー」


 フィニアは暢気に笑った後、「で、父さんなんでロットーを呼んだの?」と聞く。ロットーは近くにイシュタルがいない事を確認してから、フィニアに小さな声でこう話した。

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