前途多難過ぎる恋 30
王はロットーに「そういえばフィニアはイシュタル殿に自分のことを話したのか?」と聞く。ロットーは首を横に振り、「彼女に嫌われるのが怖くて言えないそうです」と呆れた様子で答えた。
「なんか、男としての自分に自信無いみたいで。ほら、王女ってば泣き虫でヘタレでお馬鹿だから。……あ、すいません」
「……フィニア様のお気持ち、理解できない事も無いですな」
「う~む……まぁ、それはいい。それよりイシュタル殿になんと説明をするべきか……」
「説明ですか……非常に難しいですな」
三人は当事者抜きで悩むも、当事者抜きだからかいい答えが見つからない。いや、たとえこの場にフィニアが居たとしても、フィニアが名案を出すはずもないのだが。
「……もう本人たちに任せるのでいいんじゃないですかね? フィニア王女がなんとかしますよ、多分」
段々考えるのが面倒になってきたロットーは、ついそんな投げやりな返事をしてしまう。するとオリヴァードも「それがいいかと」と、あっさりロットーの意見を支持した。
「オリヴァードさん、実はもう考えるの面倒になってきてるでしょ?」
思わずロットーが小声でオリヴァードに聞くと、老人は「何を言っておりますか」とすっとぼけた態度ですっとぼけた返事を返す。ついでに「わたくし実はこの後趣味の俳句を詠む予定があるので、出来れば早めに解決して解放してくださると嬉しいのですぞ」とか、小声で本音をぶっちゃけた。何気に神経図太い老人である。ロットーも大概アレなので、どっちもどっちなのだが。
「本人たちに任せる、か……しかし、フィニアに任せるというのは……」
王は難しい顔でまた考え始める。王が心配そうな表情を見せたので、ロットーは「王、フィニア王女のこと信じてあげてください」と言った。
「フィニア王女だって王子と何とかして相思相愛になりたいと、本人なりに結構頑張っているみたいですよ。だから大丈夫ですよ。王女はやれば出来る子ですし、それに人の恋愛にあまり他人が首突っ込むのは逆効果な気もします。俺も王女のことそれなりにサポートしますから、任せてみませんか?」
「ロットー……」
ロットーの言葉に王は心打たれたように「そうだな、あいつはやれば出来る子だ」と、なんでか涙ぐんで頷く。オリヴァードが「フィニア様に任せるのは良いのですが、結局女性同士で結婚は可能なのですか?」とさりげなくロットーの今の発言の問題点を指摘したが、王はそんなの聞いちゃいないのかどうでもいいのか、ロットーの肩を力強く叩いて彼にこう言った。
「ロットー、是非フィニアのサポートを頼むぞ! 今回もあいつを助けてやってくれ!」
「勿論です、王」
王の言葉にロットーは真面目な顔で頷く。なんだかんだでロットーもフィニアを心配しているのだろう。
しかし、やはりロットーはロットーだった。期待を裏切らない彼は、真面目な表情はそのままでこう続ける。
「ところで王、今回の件が上手く行った場合の特別賞与のご相談なんですが……」
「……う、うむ……そうだな、考えておこう」
ちょっぴり苦い表情になった王に、ロットーは笑顔で「お願いしますね」と言った。
◇◆◇
メリネヒが素敵な笑顔でカニを木の桶に入れて持ってきたのは、もうすぐお昼になるという時間の事。
「王子、見てくださいぃ~! カニさんゲットですよぉ~!」
メリネヒはそんなことを言いながら、でかい桶に入ったでかい一匹のカニをイシュタルとフィニアに見せる。まさかほんの数時間たらずでメリネヒが蟹を入手してくるとは思わず、その行動力と自由さにイシュタルは苦笑した。
「メリネヒってば……」
「か、かに? この奇妙な生き物が?」
一方でフィニアは蟹を見たことがなかったらしく、桶の中でうねうね動く甲殻類にちょっぴり怯えつつも、興味津々で桶を覗き込んだ。
「はわわ、王女様はカニさん見たことなかったですか?」
「う、うん……恥ずかしながら」
フィニアは桶の中でうねうねする蟹をじっと見つめながら、「食べた事はあるけど、こんな姿じゃなかったような……」と呟く。そして妙な好奇心で、フィニアは蟹に触ろうと手を伸ばした。
「あ、フィニア危ないよ!」
イシュタルが慌ててとめようとするも、フィニアの右手は蟹に近づく。そしてフィニアは蟹の恐ろしさを身をもって体験することになった。
蟹は近づいてきたフィニアの指を、その大きく鋭いはさみで容赦無く挟む。フィニアの顔がサーっと血の気を失った瞬間だった。
「いぎゃぁああぁぁぁあぁっ!」
途端にフィニアはよくわからないがとにかく痛そうな悲鳴をあげ、そして大混乱しながら「助けて!」と訴える。当然直ぐにメリネヒもイシュタルもフィニアを助けようと動いた。
「か、カニ~! 駄目です、王女を食べないでくださいぃ~! 王女は食べ物じゃないんですぅ~!」
「ぎゃあぁぁああぁっ! 食べられたくないいぃ!」
「落ち着いてフィニア、じっとしてて! 今助けるから!」