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gloria  作者: ユズリ
前途多難過ぎる恋
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前途多難過ぎる恋 28

「んー……なんでも、姉もアザレアに興味があるみたいで」


 イシュタルは困ったように笑い、「さっきアザレア王たちには話をしたんだけど、それにしても突然の話で申し訳ないよ」と言う。フィニアは「あ、それでちょっと朝からお城の中騒がしかったんですか」と納得したように呟いた。


「ウィスタリアの次期王が来るんですもんね。きっとその準備してるんですよね、皆。イシュ同様丁重にもてなししないと、ですから」


「ふふっ、そんなに気を使ってもらわなくてもいいのだけれどね。私も姉さんも普段は訓練ばかりやっているから、華やかな事はあまり得意ではないし。正直今回のお見合いでダンスパーティーがあったらどうしようと、ちょっと不安だったんだよ。踊れないことも無いんだけれどね、でもそういうのは苦手だから」


 イシュタルはそう言ってティーカップに口をつける。ダンス云々はフィニアがそもそもまるで踊れないので、イシュタルが心配せずともフィニアの残念な姿を晒すようなダンスを行う予定は無い。フィニアはお気に入りの甘さ控えめなクッキーをぼりぼり頬張りながら、「そうなんですか」と興味深そうに言った。


「うん。そうだ、フィニアは普段なにをしているんだい?」


「えぇ、普段ですかっ?!」


 イシュタルの不意打ちの質問に、フィニアはまた激しく動揺する。引きこもってろくにご飯も食べずお風呂にも入らず寝る間も惜しんで一日魔術書見てました、なんて馬鹿正直に言うわけにもいかないからだ。

 フィニアがちょっと答えに迷っていると、イシュタルは「ロットーからは、王女は読書が好きって話をきいたけど」と言う。間違ってはいないので、フィニアは「そ、そうです」と頷いた。


「そうか。どんな本を読んでいるんだい?」


「え、えと、魔術書……」


「あぁ、やっぱりそういう本を……私も本が好きでよく読むけど、魔術書は馴染みが無いな。やっぱり魔導の国だね」


 本当は読書というより魔術研究のために魔術書を読み漁っていた、が正解だが、あまり深い説明でイシュタルに悪い印象を与えるのは怖いのでそこは説明しないようにする。代わりにフィニアは、今がチャンスと言わんばかりにこうイシュタルへ質問を返した。


「私もイシュに質問があるんです! あの、イシュの好きな異性のタイプってどんなのですか?!」


「え、好きな……?」


 思わず首を傾げたイシュタルを見て、フィニアは「いきなりすいません!」と謝る。フィニアはビクビクしながら、小声で呟いた。


「き、気になったのでつい……」


「そう……」


 イシュタルは心底不思議そうな顔をしたが、すぐに『これは同性としてフィニアが自分と仲良くなろうと、一生懸命親密に慣れそうな話題を考えたんだ』と考える。メリネヒがいつかに『女の子同士では恋愛話で盛り上がりますよ』とも言っていたし、きっとフィニアは自分が女性だということを踏まえてこの話題をふってきたんだろうと彼女は思ったのだ。

 女性的な話題の話は慣れていないのでイシュタルは若干気恥ずかしさと緊張を感じたが、でも同時に女の子とこういう話が出来る自分に憧れも抱いていたので嬉しくもなった。


「そうだな……あまり真剣に考えてことがなかった話題だから、ちょっと答えるのに迷うね」


 イシュタルはそう前置きしてから、しばらく考えるように沈黙し、こうフィニアに返事をする。フィニアは心臓バクバクで、イシュタルの答えを聞いた。


「んー……やっぱり自分を理解してくれる人が理想かな?」


「理解?」


「うん。私のいいところも嫌なところも全部見て受け止めてくれる、そんな人となら長く一緒にいられると思うな」


 イシュタルの答えを聞いて、フィニアはちょっと安心したような、困ったような複雑な気持ちとなる。彼女が『かっこよくて頼もしくて強く男らしい人が好き!』と言われればフィニアはその真逆を突き進むので完全撃沈だが、そうではなかったのでとりあえず安心だ。しかし今の彼女の答えは、それはそれで大変難しいものだっ たのだ。


「理解、ですか……」


 イシュタルに一目惚れ同然で好意を抱いたフィニアだが、彼女のことを好きな気持ちは誰にも負けない、と思っている。しかし好きな彼女のことを一番に理解しているかと問われれば、素直にうんとは頷けない。まだ彼女とは会ったばかりなのだ。これから彼女のことを、もっと知っていけるだろうか。フィニアは彼女に質問をする前とは別の不安を心に感じた。


「フィニアは?」


「へえぇ!? 私ですか!?」


 逆に質問され、驚いたフィニアは思わず「イシュみたいな人が好きです!」とか言っちゃう。言った後に彼女は「ああぁ、違うんです!」と、何が違うんだかわからないが慌てだした。


「私?」


「すいません、イシュってだってかっこいいし綺麗だし可愛いし優しいし、自分とは全然違うから憧れるっていうか……へ、変な意味じゃないんですよ!」


 口をひらけばアホな回答しか出ない自分に、フィニアは軽く自己嫌悪に陥る。語力乏しい自分を恨みながら、フィニアは「あの、自分が男だったらイシュは本当に理想の女性です!」と言った。するとイシュタルはひどく驚いたように目を丸くする。


「え、私が……? 女性として、理想なのかい?」


「は、はい」


 フィニアが頷くと、イシュタルは「驚いた」と小さく呟く。フィニアが首を傾げ疑問の眼差しを向けると、イシュタルは思わずフィニアが『可愛い』と言いたくなるような、そんな愛らしいちょっと照れたような微笑みを見せた。


「女性として自分を評価された事はなかったからね……嬉しいよ、ありがとうフィニア」


「うええぇぇ……ど、いたまして」


 イシュタルに惚れ惚れし過ぎて意味不明な返事をするフィニアに、イシュタルは笑顔のまま「私も女性としての理想はフィニアかもしれない」と言う。フィニアは驚きすぎて「な、なぜに!?」とますます語調がおかしくなった。イシュタルはフィニアの反応が面白いからか、控えめに笑いながらこう答える。


「フィニアと話していると、とても楽しいから。それと同性として一緒にいると安心できる。それと……」


「え?」

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