前途多難過ぎる恋 23
ロットーは首を傾げるフィニアに、「王子の好きなタイプを聞いて、ちょっとずつアピールしていくんですよ」と囁くように言う。フィニアは「女のままで?」と、さらに首を傾げた。
「まぁ、女のままでもとりあえず王子の中の『好意を持つタイプの人間』には当てはまるようになるかなーっと。女のとして気に入られても困るんでしょ? なら真実を告白出来る下準備をしておいて、『実は男でした』って告白しても王子に受け入れられやすい環境を整えておくんです。どうですか?」
「う~ん、それはアリなのかな……?」
まだ素直にうんと頷けないフィニアに、ロットーは「いいからとりあえず行動あるのみですよ」と言う。フィニアは「じゃあ、頑張る」と、やっと首を縦に振った。
◇◆◇
フィニアの部屋を出たロットーは、欠伸をしながら自室に戻ろうとする。その途中、彼は知った顔が廊下の向かいから来るのを見かけて足を止める。それは今日の街へのお出かけで知り合った、ウィスタリアの騎士の男。彼もロットーに気が付くと、パッと明るい笑顔になってロットーの方へ駆け足で向かってきた。
「あ、ロットーさん!」
「あ、えぇっと……たしかレジィ?」
レジィは子犬のようにテンション高く、ロットーの元に駆けて来て「はい!」と頷く。確か彼は自分より若干年上だと聞いていたのだが、そのあまりに子供っぽい態度と様子にロットーは苦笑した。
「ロットーさん、こんなとこで何をしているんですか? あ、お仕事ですよね、勿論! すみません!」
質問して自分で答えを言って謝って、と、色々忙しい人だなぁとロットーは思いながら、「俺、そんな仕事してないんだけどねー、実は」とレジィに言う。レジィはそれを聞いてひどく驚いた。
「えぇ、ロットーさんってフィニア王女様の護衛しているんですよね?!」
「あー……そうだけど、王女は基本的にひきこ……大体お部屋で休んでるからなぁ。城の中は安全なんで、今日みたいに出かけるとかいう用事が無ければ、俺の仕事ってあんまりないんだよねー」
城は他国に比べたら小数ではあるが警備の兵が守っているし、フィニアは王女とは思えないオーラの無さなのでぶっちゃけ”王女”ということで狙われる危険性は無いだろうと真面目にロットーは思っている。それに王女は部屋に引きこもるのが大好きだから、勝手に出歩いたりしないので、本当に彼女の護衛は”護衛”で限定すれば楽な仕事だった。
「あぁ~……王女様の護衛って大変なお仕事かと思ってましたが、そうでもないんですか」
「あ、いや……王女の相談相手としてなら苦労はすっげーあるんだけどね」
「え?」
思わず愚痴を零しそうになって、ロットーは「いや、こっちの話」と適当に笑って誤魔化す。そして「レジィは何してるんだ?」と聞いた。するとレジィはまた子犬のような大袈裟な反応で目を丸くした。
「あ、僕ですか!? 僕は、そのぅ……あああぁ、あのですね……」
「ん?」
レジィは突然言葉にどもり出して、ロットーはそんな彼を疑問に思う。「どうした?」とロットーが聞くと、レジィは小さな声で「フィニア王女様がちょっと心配で……」と答えた。
「王女? えぇ、レジィもしかしてあの王女を心配してるのか!?」
フィニアを真面目に心配する人間なんて両親の王たちか、フィニアに迷惑かけられる側の人間である自分くらいなもんだと思ってたロットーは、フィニアの肉親でも無ければフィニアに迷惑かけられまくる立場でも無いレジィが心配しているということにひどく驚いた。一方でレジィはロットーがやたら驚いた事に、逆に驚いた 。
「え、はい……だって王女様、凄く落ち込んでるように見えたし……」
「……はぁ~。レジィって優しいんだなぁ。なんていうか、ボランティア精神に溢れてるっていうか」
フィニアを真面目に心配する他人がいたのかと、ロットーはフィニアに失礼すぎる感想を抱く。レジィは「えぇ?」と、困惑気味に首を傾げた。
「ろ、ロットーさんは心配じゃないんですか? フィニア王女様のこと」
「え? あ、まぁ突飛な行動とられたら後々面倒だし怖いって不安はあるけど……あ、いや。そうだね、フィニア王女のことはいつでも心配してるよ」
ロットーがフィニアのお守り、もとい護衛になって早四年だ。四年ですっかりフィニアの駄目さに気がつけたロットーなので、ついつい彼女に対して適当な敬意の払い方をするが、普通の人はやはりフィニアも雲の上の凄い人という認識なんだろう。レジィの様子にロットーは、久々にフィニアが(一応は)凄い人だということを 思い出せた。
「そうだよな、あれでも王女だもんな……うん、心配心配」
「やっぱりロットーさんも王女様が心配ですよね! ぼ、僕も凄い心配で居ても立ってもいられなくて! だってほら、泣きそうな顔してたし! きっと相当ショックだったんですよ!」
「はぁ……」