前途多難過ぎる恋 21
「……あ、たくさん……命が消えたかもしれないんですよね……私、そんな深刻に考えた事なかった……」
フィニアは小さくそう呟く。フィニアが生かされたことは奇跡に等しい事なはずなのに、自分自身はそれをあまり理解していなかったと彼女は反省する。自分は命を重く考えていなかったのではと、そう思いフィニアは自分を恥じた。
「そ、ですよね……もしコハクが男の子だったらって考えると……すごい怖いです……理由があっても、やっぱり命は大切にすべきで、奪うのはよくない……ですよね」
フィニアが途切れ途切れにそう言葉を呟くと、イシュタルは突然悲しげな表情になって、こうフィニアに語りかける。
「フィニア、命を奪うのは良くないと思っていても、命を奪うことを迫られることもあるんだ。君は一国の王女だから、そのことは知っておいたほうがいい」
「え……?」
イシュタルが突然何を話そうとしているのかフィニアにはわからなかったが、しかしイシュタルが真剣な顔で何かをフィニアに語ろうとしているのはわかる。けれどもイシュタルは寂しげに目を伏せるだけで、それ以上その言葉の続きを語ろうとはしなかった。
「……っと、もう大丈夫? 大体手当ては終わったけど」
「へっ! あ、はい! ありがとうございます!」
話に集中していて、手当てのことなどすっかり忘れていたフィニアは、イシュタルの問いかけに対して頭を下げて礼を言う。イシュタルはまたにっこり笑って、「いいよ、こういうのは慣れてているから」と言った。
「それにしても、フィニアも色々と大変なんだね」
「えっと……」
「コハク王女のこと……なんだか私の想像以上にコハク王女は難しい年頃みたいだね」
「あ、あはは……仲直りするどころか、また一段と嫌われちゃいました……」
笑い事ではないくらい徹底的に嫌われたフィニアだが、笑うしかない。するとイシュタルは「でもお姉さんに着替えの最中に部屋に入られるのって、そんなに嫌な事なのかなぁ?」と首を傾げ、フィニアはますます笑うしかなく「あはは、ですよねぇ」と笑って誤魔化す。
「こ、コハクはほんと恥かしがり屋さんで!」
「そうか……私は別に姉さんに着替え覗かれても平気だけど……」
「あ、あははは……」
ひたすら首を傾げるイシュタルに、真実を言えないフィニアは冷や汗を掻きながら同じように首を傾げた。
◇◆◇
「あ、王女。よかった、鬱で自殺でも図ってるんじゃないかと思って心配してました」
イシュタルと入れ替わりでフィニアの部屋にやって来たのはロットー。彼は言葉とは裏腹に全く心配した様子も無い笑顔でやって来たので、フィニアは思わず「嘘付け」と彼に返した。
「心配なんてしてなかったろ」
「いやいや、王女死んじゃったら俺無職になるんでマジで心配してましたって。この仕事、給料だけはすっごく良いし。たまに苦労と報酬が見合わないかもって思うときもあるけど」
「お前の心配ってつまり自分の心配じゃないか……」
暢気に「まぁ、そう言われればそうですね」と笑顔で言うロットーを見て、フィニアは心底疲れたような溜息を吐く。そしてフィニアは恨めしそうな顔で、「お前だけは俺の味方だと思ってたのに」と呟いた。
「なに言ってんですか王女、俺は一人じゃ空回りしまくりの駄目王女の味方ですよ」
「……なんでだろう、なんか素直に喜べない」
フィニアがそろそろ本当に鬱になりそうになっていると、ロットーは「王女、イシュタル王子と仲良くなれました?」と唐突に聞く。彼はどうやらフィニアの恋の行方について途中経過を聞きに来たらしい。フィニアはちょっと頼りない表情をロットーに向けた。
「あー……女の子のフィニアとしてなら順調に仲良しになってると思うよ……うん」
フィニアの報告を聞いて、ロットーは思わず渋い顔となる。
「王女、それじゃ駄目じゃないですか」
「そんなこと言われても……だって今更『実は俺男なんですー』とか言えるか?」
フィニアの言い分はもっともだが、でもそれでは全く事態は進展しない。ロットーは「王女は本当にこれからずっと女の子のままでいるつもりなんですか?」と、フィニアを責めるような口調で言った。
「う~ん……」
「う~ん、じゃなくて。それともアレですか、王女は女の子同士でいちゃいちゃしたい性癖の人間だったんですか」
「……もうさ、それでもいいとちょっと思い始めてるんだよね」




