前途多難過ぎる恋 19
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「フィニア、大丈夫かい?」
「うぅ……な、なんとか……」
フィニアは自分のベッドに腰掛けながら、側で心配そうな顔で手当てをしてくれているイシュタルに力無い笑顔を向ける。
コハクに散々お仕置きされたフィニアは、その後召使と駆けつけたマリサナがコハクを羽交い絞めにして止めてくれたので、体中打撲痕だらけになったがなんとか命だけは助かる。しかしコハクにまた徹底的に嫌われたという事実が、フィニアの心を体の傷以上に痛ませていた。
「結局またブローチ渡せなかったし……」
「ん?」
「あ、すいません……悲しい独り言です」
「そ、そう……あ、ちょっと上着持ち上げてフィニア。テープ貼れないから」
「え、あ、はい……」
フィニアがぼっこぼこにされたと聞いて心配したイシュタルはすぐ彼女の元に飛んできたのだが、余程フィニアを心配したのか『手当ては自分がやる』と驚きの申し出を彼女はしてきた。さらに断る前にさっさとフィニアをお姫様抱っこして部屋に連れて行くものだから、フィニアは結局イシュタルに今こうして手当てをしてもらうことになった。なったのだが……
(な、なんか……これはこれでまずい……ような)
本気出したコハクはどこで身につけたのか不明だが強力な体術を繰り出して、着替え覗き魔のフィニアを殴る蹴るのぼっこぼこにした。結果体中痣や擦り傷だらけになったフィニアは、手当ての為に薄着になってイシュタルの手当てを受けている。この薄着がポイントで、さっきの大暴れした妹同様ほぼ下着姿だった。そんな格好 で好きな人にあれこれ体のあちこちを触られているのだ。真面目に手当てしてくれているイシュタルに申し訳ないが、元健全な男児だったフィニアはいかがわしい妄想が何度も頭をちらついて正直手当てどころじゃなかった。
(や、落ち着け俺。俺は今女の子なんだし、別に恥かしいこともいかがわしいことも何もないな……?)
そう思い込もうと必死なフィニアだが、やっぱりなんだか顔が赤くなってしまう。仕舞いにはイシュタルを意識しすぎて、ちょっとくすぐったくて敏感なとこに彼女の手が触れるだけでビクビク反応する始末だった。ロットー辺りに話しをしたら、『とんだド変態ですねあんた』とか言われる事間違いなしである。実際フィニアも自分のド変態っぷりにちょっとへこみつつあった。
「あ……っ」
「あ、ごめん、痛かった?」
「へ?! あ、ううん、痛くないです! うああぁぁぁ……」
イシュタルの指先が足の付け根というだいぶきわどいところに触れたのでうっかり変態くさい声が出てしまい、フィニアは恥かしさから顔を赤くさせたり青くさせたりする。そして彼女は恐ろしい事実に気づいてしまった。
(これはもう死んでも男に戻れないじゃん……)
イシュタルが無防備に自分の手当てをしてくれてるのは、自分たちが同性同士だからだろう。これで『実は俺男です』なんてばらした日には、変態のレッテル貼られること間違いなしである。さらに自分はイシュタルの前で散々情けなさ全開で泣き、抱きしめてもらったりなんかもしてしまった。泣き虫は女の子だからまだ”可愛いね”と女性補正で許されるが、十八の男が泣き虫となるとそれはちょっと……というレベルの問題だろう。抱きしめるも、女の子相手だからやったのだろうし。
とにかくイシュタルは今フィニアに、同性だからということで気を許している部分が多くあるのは間違いない。
「だ、駄目だ! 真実がばれたら終わりだ!」
「フィニア、どうしたの?」
思わず絶望が声に出ていたらしい。イシュタルのつっこみで我に返ったフィニアは、ブンブンと激しく首を左右に振って「ごめんなさいすっごい独り言です!」と不思議そうな顔のイシュタルに言った。
今までのフィニアの不審な行動の数々に、イシュタルは何故か怪訝な様子を見せず可笑しそうに笑う。そして「フィニアって本当に面白いね」と彼女は言った。
「え……」
「なんだかころころと表情が変わって、見てて飽きないよ。……あ、こんなこと言っちゃって気分悪くしたらごめんね」
自分の言葉にフィニアが怒るかなと思い、イシュタルは遠慮がちな顔でフィニアの顔を覗きこんで謝る。その表情がフィニア的にすごく可愛くて、フィニアは赤面しながらおろおろと挙動不審になった。そして混乱するフィニアは、こんなことを口走る。
「い、イシュは可愛いですね! すごく、可愛いです! ほんと!」