前途多難過ぎる恋 18
アザレアの城の庭園、その片隅の薔薇園に二つの人影が立つ。人目を憚りながら、彼らは小声で言葉を交し合っていた。
「フィニア王女に、コハク王女か……」
「どちらをターゲットにするかはお前に任せよう」
「自分に?」
「どちらかといえばフィニア王女の方がマヌケで簡単そうだが……まぁ、それはお前が自由に決めろ」
「……了解」
男は頷くと身を翻して素早くその場を立ち去る。女は表情無い顔で、立ち去る男の背中を見つめた。
◇◆◇
途中マリサナに会い、彼女に『コハク様は自室にいらっしゃいますよ』と話しを聞いたフィニアは、コハクの部屋へと向かう。
(せっかくブローチ買ったんだし、これコハクに渡したいよなぁ……)
フィニアは先ほど購入したブローチをしっかり手に持ちながら、深呼吸を切り返しつつコハクの部屋へと向かう。ブローチを握った手が物凄い勢いで汗ばんでいったが、今のフィニアにそれを気にする余裕は無かった。
やがて部屋に向かっているうちに、フィニアの頭の中はとにかく早くコハクにブローチを渡したい気持ちでいっぱいになる。早くコハクの喜ぶ顔が見たいフィニアは、仕舞いにはスキップなんかしながらコハクの部屋へと急いだ。
その頃コハクは部屋で召使に手伝われながら着替えをしていた。
「コハク様、また身長が伸びましたね」
「やはりそうですか? 最近また少し服がきつくなってきたような気がしましたから、そうじゃないかって思ってました」
「フィニア様はあまり背が伸びなかったようですが、コハク様は国王様に似て背が高くなるかもしれませんね」
「ふふっ、そうですか? 私マリサナみたいな背が高くてスタイルの良いかっこいい女性になりたいのですごく楽しみです! そうそう、最近胸も大きくなってきたんですよ」
「そうですね。随分と女性らしくなられましたよ、コハク様」
コハクがそんな感じで召使たち会話をしながら着替えていると、突然部屋のドアが物凄い勢いで開けられる。
「コハク!」
「きゃあああああぁぁぁっ!」
思わず召使たちが悲鳴を上げ、ドアの向こうを見ると、そこには嬉々とした笑顔のフィニアが立っていた。しかしその笑顔は直ぐに引き攣る。彼女の視線の先では、コハクが服を脱いで着替え中だったのだ。
「あ……ごめ、ノックするの忘れてた……」
早くコハクに会いたい一身でやってきたフィニアは、妹とはいえ女性の部屋のドアをノックも無しにあけてしまった。そしてその結果彼女はとんでもない地獄を味わう羽目となる。
「お、おにいさま……あなたって本当に……っ」
「あ、あああわわわごめんなさいコハク……っ!」
ドレスを脱いで裸一歩手前な格好のコハクはどすどすと重い足音を鳴らして、額に怒りの青筋を浮かべながら青ざめるフィニアに近づく。そして素晴らしい上段回し蹴りを放ち、フィニアを吹っ飛ばした。
「ごふぁっ!」
「本当に大っ嫌いっ! 馬鹿っ! 変態っ!」
廊下に無残に転がったフィニアを、さらにコハクは容赦なく蹴りまくる。コハクが下着だけの格好で暴れるので、召使たちは必死で彼女を止めた。
「コハク様、とりあえず部屋の中に! ふ、服を……っ! あとフィニア様が死んでしまいますからお止めください!」
「いいのです、こんな脳みそ空っぽな大馬鹿は今この場で始末しないとっ! それが世の為アザレアの為です!」
フィニアとコハク、彼らは兄が裸で部屋を脱走するなら妹も下着姿で暴走するというとんでもない兄妹だった。
「コハク、ごめっ……許してええぇぇぇっ!」
「このバカバカバカバカバカっ! 馬鹿ああぁぁぁぁぁぁぁっ!」